第五十章 トンの町 1.テムジン来訪
シュウイがF級からE級に上がったので、第一部の「見習い」篇から第二部の「なりたて冒険者」篇になります。
一日ログインしなかっただけだというのにしばらく留守にしていたような気分で、シュウイはトンの町の冒険者ギルドを訪れた。
「よう、坊主か。できてるぜ」
偶々だろうがその場に居合わせたギルドマスターが掲げて見せたのは、シュウイのギルドカードである。規定の依頼を達成した事で、シュウイの冒険者ランクがめでたくF級からE級に上がったのだ。手渡されたカードを見るシュウイの胸にも万感の思いが迫って……
「おう。そう言やぁ坊主に言伝があったわ」
「ギルドマスター……少しくらいは余韻に浸らせて下さいよ」
「知るか。テムジンが会いたいって言ってた。行くんならさっさと行ってやんな」
テムジンさんが? ……何だろう?
不審の念を抱きながら、シュウイはテムジンの工房へと足を向けた。
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「やあ! 来てくれて感謝する、シュウイ君」
「お久しぶりです、テムジンさん」
テムジンの工房を初めて訪れたシュウイは、思わず鍛冶場のあれこれに目を走らせる。テムジンに限らず、シュウイは鍛冶場を見るのが初めてである。
「鍛冶場が珍しいかい?」
「あ……済みません、キョロキョロと」
「いや、別に構わない。こちらから頼んで来てもらった事だしね」
「あ、そう言えば、僕に御用だとか?」
「うむ」
テムジンは一つ頷くと徐にシュウイに向き直って口を開いた。
「タクマから聞いたんだが、弓が使える可能性があるとか?」
……あ……そう言えば、テムジンさんって……
「一番最初は弓を使おうとなさってたんでしたか……」
テムジンは、今度は大きく頷いた。
「今の選択に不満は無いとはいえ、エルフでありながら弓が使えないというのは……こう、どうしても隔靴掻痒というか、画竜点睛を欠くというか……」
「あぁ、解ります。けど、僕が知っているのは冒険者ギルドの訓練場にいたドウマという住人の方から聞いた事だけですよ?」
一応念を押した上で、シュウイはドウマから聞いた内容をテムジンに伝えていく。
「……プレイヤーは住人に較べて膂力に劣るのか……」
……あれ、能く考えたら、これって結構重要な情報なんじゃ……
「ま、まぁ、そういう訳で、プレイヤー向けの講習では弱い弓を使っているみたいですね」
「で、弱いから真っ直ぐに飛ばない、当たらない……と」
「テムジンさんくらい腕力があれば、普通に引けたかもしれませんね」
僕としては何の気無しに言ったんだけど、それを聞いたテムジンさんがその場にがっくりと頽れた。
「……他人の意見を鵜呑みにせず、自身で訓練場に行っていたらっ……」
あ……テムジンさん、凹んじゃった……
「あ、あの……何だったら訓練場に行ってみます? ドウマという人の顔は憶えてますから、少しぐらいはお役に……」
立てるかも……と言うより早く、ガバと身を起こしたテムジンがシュウイに詰めよる。
「頼めるかいっ!?」
「え、えぇ、それくらいなら……」