第四十九章 篠ノ目学園高校(金曜日) 5.放課後(その3)
祝福称号の方はしばらく放っておくと決めた蒐一は、次に謝罪称号について問いを放つ。
「ま、それは良いか。だったら謝罪称号の方は?」
「こっちは更に難物ね……というか、イロモノっぽいわね」
「でもさ、要ちゃん、精霊さんたちとの取引優待っていうんでしょ?」
悪いものじゃないんじゃないと言う茜に、溜息を吐きつつ匠が突っ込みを入れる。
「……お前な……精霊なんてどれだけ見つかってると思うんだ。滅多に会えるもんじゃないんだぞ?」
「……いえ、だからこその称号なのかもしれないわね」
怪訝そうな三対の視線に、思うところを開陳する要。
「あくまで思いつき程度だけど……ひょっとしてその称号を持っていると、精霊に出会う可能性が高まるのかも知れないわ」
「……精霊が寄って来るってのか?」
「というより、無視される事が減るんじゃないかしら。謝罪という点を考えた場合だけど」
「う~ん……あり得なくは無いか……」
「どちらにしても、これも運営の方針に従ったものでしょうね」
「……住人たちとの交流促進ってやつ?」
「多分ね」
これまでの流れに鑑みれば、要の説明にもそれなりの説得力がある。
「……だったら、この話も掲示板に上げた方が良いのか?」
「それはちょっと待てよ、匠。取引っていう事を考えると、先にナントさんに相談してからの方が良いような気がする」
「あ~……それはありかもな」
「うんうん」
「だったら、今日明日にでもナントさんに報告してもらえる? 蒐君」
「うん。今日にでも店に行ってみる」
蒐一の話が一応とはいえ纏まったところで、今度は他の三人が――正確には彼らのパーティメンバーが――拾ったという使役スキルの事に話題が移る。
「……【従魔術】に続いて、【召喚術】と【死霊術】も拾えたんだ……」
「……言っとくけど、俺が拾った訳じゃないからな?」
匠に向かって、お前も結構やらかしてるじゃないかという視線を向けてくる蒐一。そしてそれを牽制する匠。女性陣は我関せずの態度を決めているが、彼女たちのパーティメンバーも【召喚術】を拾っている……どころか、「使役術師」を名告る老婆と出会ったりしているのだから、無罪を主張するのは筋違いである。
「……結局、使役系三アーツの全てが後付け可能って事か」
「スキルオーブで取得できないんじゃないかって言われてたけど……こんな抜け道があったとはね」
「でもさ、要ちゃん、これって期間限定だとか言ってなかった?」
新規参入者へ向かって、いきなり使役職への転職が可能になるようなイベントを出すとは考えづらいという見解については、既に蒐一にも伝えてある。
「それはそうだけど、逆に言えば、今後も同じようなイベントがあると言っているようなものじゃない?」
「へ?」
「どういう事なの?」
頭の上に?マークが浮かんでいそうな匠と茜を尻目に、蒐一が要に確認する。
「第一陣だけを優遇する訳にはいかない筈……って事で良いのかな? 要ちゃん」
「そういう事ね」
「……あ」
「そっかー……」
「だったら、この件は公表するつもりなの?」
「問題はそこよね……」
今回限りの話であれば、下手に公表すると取得できなかった者の恨みの矛先が向く可能性がある。しかし、今後同じようなイベントがある可能性を考えると、黙っている方が拙いかもしれない。要の推理が当たっていれば、新規参入までまだ四日間ほどのチャンスがあるのだ。
「少し様子を見て、どこからも情報が上がらないようなら報告した方が良いのかも……」
「けどよ要、お前の予想が当たってたらチャンスは残り四日間だけだろ? のんびり待ってる余裕は無いんじゃね?」
「それもそうね……早めに報告した方が良いのかしら……」
「じゃ、要ちゃん、宜しく」
「蒐……お前な……」
「えぇ。うちのリーダーに任せるわ」
「「「…………」」」
にこやかに笑う要に対して、何も言えない三人であった。
次話からストーリーは第二部に入ります。あのキャラが久々の登場です。