書籍化記念挿話 双剣士の得物
本作の書籍化記念という事で、まず挿話をどうぞ。本編は約一時間後に公開の予定です。
「おい匠……じゃなくてタクマ、あのスクショは一体何なんだよ?」
SROにログインしたところ、タクマからメールが届いていたので、朝食を済ませた後で開いてみた。スクリーンショットが添付された文面は、一言簡素に〝「マックス」メンバー〟とあるだけで、これでは何の事なのか判らない……薄々見当は付くにせよ。
「お、ログインしたか。メールに書いたとおり、俺たち『マックス』のメンバーだ。あれだろ? シュウはもうじきナンの町に来るんだろ? なら、偶然会う事も考えて、顔ぐらい知っておいた方が好いだろ」
「それはそうだけど……待てよ、僕のスクショも見せたのか?」
「馬鹿言え。そんな勝手な真似ができるかよ。SROの運営、そういう事には厳しいからな。お前の許可が貰えてからにするわ」
運営が厳しくなければ見せたのかと問い詰めたくなるが、そこはスルーで。訊きたいのはそういう事じゃない。
「それは良いけど……お前、双剣士じゃなかったのか?」
スクショには五人の男たちと並んでタクマが写っているが、問題はその得物である。
「何だよ、この馬鹿でっかい剣は?」
スクショのタクマが背にかるうように装備しているのは、柄の長さだけで五十センチ以上はありそうな、馬鹿長い片刃の剣である。人間サイズの柳刃包丁をイメージしてもらうと良いだろうか。端的に言って、双剣士の得物には相応しくない。
「あ? シュウは知らなかったか? SROの双剣士ってのは、ちょっと特殊な派生職なんだよ」
タクマが言うには、片手で一振りずつの剣を操る双剣士は、それなりの膂力が求められる。ステータスが低いうちは普通の片手剣を使うが、ステータスが高くなると長剣なども片手で扱えるようになるという。
「でな、その腕っ節だと、こういうでかい得物も振り回せるんだよ。さすがに片手じゃ無理だけどな」
「おい、だったら双剣士って、片手剣から大剣まで扱えるのかよ?」
「あぁ。だから転職には特別な条件が必要になる。ま、俺はβプレイヤーの特典でクリアしたけどな。相手によって武器を変えられるのが、双剣士の利点だな」
「片手剣から大剣までか……お前が執着するのも解るような気がするな」
「それでも本職の大剣使いには負けるけどな。あいつらが振り回すのは、もう一回りか二回りでかい大剣だからな」
「マジなのかよ……」
驚き呆れていたシュウイであったが、気を取り直してタクマに訊ねる。
「前に会った時は、確か普通の剣を両腰に下げてたよな?」
「あぁ、あん時はまだ双剣士が解放されてなかったからな」
「解放?」
訝しげなシュウイの声を聞いて、タクマが説明する。βプレイヤーの特典は、必ずしも最初から使える訳ではないのだと。
ゲームのバランスを崩さない配慮だろう。武技や魔法を引き継いだ場合、最初のうちはアンロックされた状態にあり、ステータスとかの条件が揃って初めて解放される仕様らしい。
「じゃあ、今はこの大剣を装備してるのか?」
「いや、こりゃあ討伐依頼の帰りだな。ナンの周りに出てくるモンスターって、大抵が昆虫系でな、どいつもこいつも硬ぇんだよ。あとは毒持ちも多いな」
普段は長めの長剣と片手剣を装備しており、長剣は背中にかるい、片手剣は右腰に佩いているという。右手で長剣、左手で片手剣を振るうスタイルのようだ。
「随分リーチに差があるな。使いにくくないか?」
「両方長剣だと、接近された場合が面倒だからな。相手によっちゃ、片手剣で二刀流をやる事もある」
「また、随分器用な真似をするんだな」
「お前が言うな」
同感である。
「でも、ナンの町だと、そんな大剣も売ってるのか」
シュウイはSRO内で一般的な武器スキルを取得できないため、武器屋にも鍛冶屋にも足を運んだ事は無い。……まぁ、ナントの雑貨屋で大抵揃うという事もあるのだが。しかしそれでも、トンの町で大剣を見かけた事は無い。さすがに二番目の町は違うなと感心していたのだが、
「いや。コイツはβ特典だからな。大剣は……鍛冶屋に頼めば打ってくれるとは思うが、武器屋で見かけた事は無いな」
「……双剣使いのくせに、大剣を引き継いだのか……」
「そりゃ、この生喰はエリアボスの討伐報酬だからな。そこらの大剣と一緒にしてもらっちゃ困る」
「ナマクラ?」
「鈍じゃないからな。生を喰らうと書いて生喰だ。良い名前だろうが」
「……お前が付けたのか?」
「あぁ。魔物を喰らう魔喰にしようか悩んだけどな、魔力を吸うと勘違いされても面倒だから、魔喰はやめた」
「……ここの運営だと、そういうのもどこかに仕込んでいそうだけどな……」
「……ありそうで怖いよな……」
書籍化記念の挿話です。カバーのタクマのイラストと共にお楽しみください。