第四十八章 巧力家
「あらぁ~ 匠君、久しぶりねぇ~」
「あ、ご無沙汰してます」
同じ町内という事で、子供の頃はしょっちゅう遊びに来ていた匠であったが、さすがに中高生ともなるとそう度々は遊びに来なくなる。なので、匠が蒐一の家を訪れたのは、かれこれ二年ぶりだったりする。
「匠、鞄を僕の部屋に置いて上着を脱いだら、先に庭に出てろよ」
「おう」
勝手知ったる匠を先に部屋へ送ると、蒐一は庭で少し身体を動かす事の許可を取っておく。庭には母親が育てている花壇があるので。
「良いけど……花壇を踏んづけたりしちゃ駄目よ?」
「うん、解ってる」
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「じゃあ匠、本当は十手の扱い方をしっかり覚えるのが先なんだけど、匠は十手術を覚えたいんじゃなくて二丁十手の動きを知りたいだけだろうから、先に歌枕流の二丁十手の型を見せるから」
そう言うと蒐一は、左右の手に十手を握って二丁十手の型を演武していく。匠にも見て解るように、ゆっくりと、正確に、型の動きをなぞっていく。匠はその動きを食い入るように見つめている。
同じ動きを三回ほど繰り返すと、蒐一は一旦演武を中止した。
「蒐、今のがそうか?」
「うん。歌枕流十手術中伝、二丁十手の型、一本目の表。これが基本になるから、最初にこれをしっかり覚えて。動きの意味は後で教えるから、とにかく大雑把で良いから動きだけ」
「お、おう」
蒐一に言われて、とにかく型の動きだけを真似する匠。一応剣道の下地がある上に、子供の頃から蒐一のチャンバラに付き合っていたため、割とサクサク型を覚えていく。一応の真似はできるようになったタイミングで、蒐一が木刀を取り出して宣う。
「それじゃ匠、僕が木刀で打ちかかるから、匠は何も気にせずに演武を続けて。そうしたら技の意味が解るから」
「お、おう、マジかよ……解った、やってくれ」
腹を括った匠に木刀で打ちかかる蒐一。おっかなびっくり演武を続ける匠だが、成る程、さっきまでは解らなかった動きの一つ一つが意味を持ってくる。蒐一の木刀を躱し、受け止め、払う事で、より一層正しい型を身に付けていく。二本目の表裏を教え込んだところで、蒐一が意味ありげに笑いかける。
「それじゃ匠、中伝の二丁十手はあと三本あるんだけど、それは飛ばして次に行くよ」
「え? 飛ばすのかよ?」
「うん。一気に奥伝に行く」
「おおぅ……一気に奥義かよ」
「あ、別に奥義って程じゃないから。単に基礎じゃないだけ」
「何だよ……テンション落ちるじゃねぇか……」
「そう? 奥伝には二丁十手同士の対戦の型があるんだけど?」
「マジかよ!? テンション上がるわ」