第四十六章 ナンの町 2.「ワイルドフラワー」(その1)
タクマから召喚術と死霊術の取得に関する情報を貰ったカナは、その内容をパーティメンバーに報告していた。
「召喚術はともかく……死霊術はちょっと……」
あからさまにドン引いた様子のパーティメンバーを見て、あぁやっぱりと頷きながらも、言うべきと思った事は言っておく。
「その反応も解るけど、必ずしも悪い事ばかりじゃないわよ?」
「闇魔法の件でしょ?」
「それだけじゃないわ。私たちの従魔術だと、闘うか何かして力関係を知らしめた相手しか使役できない。けど、召喚術はランダムで召喚獣を得る事ができるし、死霊術は死霊や屍体があればそれを使役する事ができる。使役対象を得る際のハードルが低いのよ。序盤で労少なく使役対象を得るというのは、無視できないメリットだと思う。ついでに言っておくと、死霊を使役対象にせず、単に情報収集や交渉の相手として扱う事ができるのも特長と言えるわね」
整然と述べられたカナの意見には説得力がある。あるのだが、しかし……
「でも……ねぇ……」
「う……ん。……呼び出すまで何が出てくるか判らない召喚術と、アンデッド系しか使役できない死霊術は……ねぇ?」
やはり魔法少女にはハードルが高いようであった。その様子を見てカナは軽く肩を竦めると――こういう仕草がつくづく絵になるキャラである――無理には勧めずに注意するに留める。
「まぁ、無理強いはしないわ。けど、そういう利点がある事、そして、そういう判断をするプレイヤーもいるという事だけは覚えておいて」
これでこの件は終わりと思ったメンバーたちだったが、ただ一人がそれに異を唱える。
「……ねぇ、カナちゃん、何か言いたい事があるんじゃない?」
センの突っ込みに苦笑するカナ。やっぱり幼馴染みは誤魔化せない。
「あると言えばあるんだけどね……確信が無いのよ」
「む~……カナちゃんらしくないよ~」
「でもねぇ……ただの思いつきみたいなものだし……」
珍しく躊躇するカナに、こちらは全く躊躇しないリーダー、エリンが発言を強く促す。
「カナ、言いたい事があるならはっきり言いなさい。判断はあたしたちで下すから」
「う~ん……けど……いえ、そうね。やっぱり言っておくわね」
そう前置きしてカナが口にしたのは先程タクマに話した懸念、すなわち、モンスターの使役術、あるいはモンスターとの交流が重要になってくる可能性であった。
「なるほど……ここの運営の前科を考えると、あり得ない可能性じゃないか……」
「確信が持てないから言いにくかったんだけどね」
「カナの言うとおりなら……メンバー全員が何らかの使役スキルを持っていた方が良いのかしらね」
「……これも憶測なんだけど……毒を食らわば皿までで言っておくわね。パーティメンバーがそれぞれ異なる使役スキルを持っていた方が有利だと思う」
ある意味で決定的な発言に凍り付いたのは、いまだに使役スキルを持たない二人である。この流れだと、二人のうちどちらかが死霊術を修得する事に……?
「さっきも言ったけど、無理強いしたりはしないわよ? それに……」
「それに?」
「ゲーム的な面を考えてみたのよ。一応客商売なんだし、ユーザーが引くようなモンスターを使役用に用意するかしら?」
「身も蓋も無い説明だけど……その分説得力があるような……」
「ゲームバランスを考えても、特定の使役職が不利になるような事はしないと思う」
「ふんふん」
「死霊術を気にしてるみたいだけど、少なくとも序盤で登場するのは、比較的初心者向けの幽霊や人魂じゃないかと思うわよ? ゾンビみたいなのを出したら、死霊術師は間違いなく敬遠されると思うし、第一、今までに腐乱死体って見なかったでしょう?」
この辺りはシュウイの実体験に基づいているのだが、そんな事はおくびにも出さない。センもそこは解っていて突っ込まない。
「そう言えば……」
「出くわしたっていう話は聞かないよね……」
「尤も、これについては、腐乱死体を見つける資格が死霊術を修得している事だという落ちも考えられるけど」
「うっ……」
「むぅ~……カナちゃん、上げるか落とすか、はっきりしてよ」
「あら? 上げるとか落とすとかじゃなくて、想定し得る事態を並べているだけよ?」
しれっと言い返すカナ。人柄とはこういうところに滲み出るものらしい。
「ねぇ、カナ、死霊術はともかく、召喚術はどうなるの?」
「ゲームバランスとして、特に不利益になるようにはしないと思う。召喚対象が選べない事を気にしてるんだと思うけど、序盤ではあまり尖った性能のモンスターは出てこないんじゃないかしら。鳥系のモンスターが選べないというのも、その流れだと思うし」
「う~ん……」
「それにこのゲームって、確かモフモフの従魔と触れ合えるっていうのが売りでしょ? いきなり変なモンスターは出さない筈よ?」
カナの説明――確かに根拠は無いのだが、どこか説得力はある――を聞いた二人は考え込む。やはり召喚術――か死霊術――を取得するのが正しいのか?
「もしも今度出会ったら……」
「うん……考えてみる」