第四十五章 水汲みクエスト 6.冒険者ギルド
「ただ今戻りました~」
冒険者ギルドへと帰り着いたシュウイは、少しばかり疲れた声で帰還を報告する。そのシュウイの応対には、ギルドマスター自らが当たってくれた。
「おぅ、問題無く帰って来たみてぇだな」
「いえ、問題はありましたよ」
「何?」
訝しげな表情のギルドマスターに、水汲みクエストだというのにモンスターと闘う羽目になった一件を報告する。
「ははっ、姿を隠してたもんで、通行手形が使えなかったってか?」
「他にも同じような目に遭うプレ……異邦人がいるかもしれないので、一応報告しておきます。泉の精霊さんにも、報告については了承を貰ってますから」
「おう。滅多にあるこっちゃねぇとは思うが……一応、注意書きは出しとくわ。で、問題の水は持ってこれたのか?」
「あ、はい。ギルドから依頼の分と、追加で師匠から依頼された分」
「おお、確かに。んじゃ、バランドさんの分もうちで預かっとくわ」
「あ、お願いできますか?」
弟子筋のシュウイが届けるのが筋という見方もできるが、一旦ギルドに依頼を発注した以上は、注文品の受け取りにもギルドを通す必要がある。どうせバランドがギルドへ来る必要があるので、ここに預けておいた方が面倒が無い。
「それでだ、これで坊主はめでたく昇級に必要なポイントを稼いだ訳だから、F級からE級に上がる事ができる。事務的な手続きがあるから今すぐって訳にゃいかねぇが、明日中にはカードも更新できる筈だ」
ついに昇級かと思うと、シュウイの胸にも複雑な思いが去来する。思えば妙なユニークスキルを得たばっかりにまともなスキルが得られなくなり、ここまで来るのに普通より長い時間を要した。しかしその反面で、普通では出くわさないような経験もできて、中身の濃い日々を送る事ができたような気もする。
「で、坊主はこの町を出てくんだよな?」
改めて問いかけられると複雑だが、いつまでもこの町に居座るのもプレイヤーとして正しくないだろう。それにそろそろこの町では、経験値を得るのが難しくなってきている。
「そうですね……正直、別れがたい気もしますけど……」
「何、気にする事ぁ無ぇ。雛はいずれ巣立って行くもんだ。どっちかってぇと、巣に引っ籠もって巣立たねぇ方が問題だろうよ」
「あはは、それはそうですね」
「ま、気が向いた時にここへ戻ってくりゃ良い。いつでも歓迎するからよ」
柄にもなく優しい言葉を寄越すギルドマスターに深くにも胸を熱くしていたシュウイであったが、続けて発せられた言葉に感動も何も吹っ飛んだ。
「ま、坊主くれぇ腕がたつなら、転移門を使えるようになるのもすぐだろうよ」
……転移門?
聞き捨てにできないワードを聞いたシュウイが、ギルドマスターを問い詰める。ギルドマスターの方は、寧ろシュウイが知らなかった事の方が意外だったようだが、とりあえず大雑把な事は説明してくれた。
「……すると、行った事の無い場所へいきなり行けるって事じゃないんですね?」
「あぁ。王都のお偉方くれぇになるとできるかもしれんが、儂の知ってる限りじゃないな。転移門で往き来できるのは、王都とその四方にある四つの町だけ。それも当人が行った事のある場所だけだ」
「僕たち『異邦人』も、その転移門を使う事はできるんですか?」
「多分だが、できる筈だ。条件さえ満たしていれば、だがな」
「……その、条件っていうのは?」
ギルドマスターは意味ありげな顔でにやりと笑った。