第四十五章 水汲みクエスト 1.トンの町冒険者ギルド
SROにログインしたシュウイは、朝食を摂った後で冒険者ギルドへと向かう。昇級に必要な最後の依頼を受注するためである。
「よう、丁度好いところへ来たな」
ギルドマスターがそう言うと、それまで彼と話し込んでいた人物がシュウイの方を振り向いた。
「む。なんじゃ、お主か」
そこにいたのはシュウイの【調薬】の師匠、バランドであった。
(あ……拙い……。このところ【調薬】や【錬金術】のレベル上げがご無沙汰だった……)
――などと考えている事はおくびにも出さず、しれっと挨拶するシュウイ。
「お早うございます、師匠」
「ふむ? 修行をサボっておったのがばれたか、と言いたそうな顔じゃな」
げ、どうしてバレたんだろう?
「お主の考えておる事くらい判るわい」
「まぁまぁ、先生もそれくらいで。こぞ……シュウイにはこのところ色々と依頼を片付けてもらってましてね」
うん。ギルマス、今、小僧って言おうとしたよね?
「ほう? それでは水汲みの依頼も?」
「えぇ、彼にやってもらう事に」
「ふむ。なら丁度好いな。儂の分もついでに頼む」
え?
「……元々の依頼人は師匠じゃないんですよね?」
錬金術師っていってたから、違うよね。
「うむ。儂の知り合いではあるがな」
えぇと……確か最初の依頼だと……北のフィールドにある泉から水を十リットル汲んで来るって事だったよね。
「えと……師匠の分も十リットルですか?」
アイテムバッグに入るかな? 中身を整理しておいた方が良いな。
「ん? ……まぁ、それくらいで良いじゃろ」
それくらいって……五リットルの樽で合計四個になるんですけど……。
「おぉ、それと、どこから汲んで来るようになっておったかな?」
「あの……北の草原の奥にある泉からという事でした」
ちらりとギルドマスターの方へ視線を向けると、黙って頷いている。
「ふむ……ならば変更じゃ。東の草原の奥にある泉から汲んで来るように」
「え? 勝手に変えちゃって良いんですか?」
「構わん。北の泉としておったのは、引き受けてくれる冒険者を増やすために、簡単な場所にしただけじゃからな。お主なら東の泉でも問題無いじゃろう。ナントから色々と武勇伝を聞いておるぞ?」
ナントさん……秘密にしてくれるように言ったのに。……師匠に問い詰められたら隠しきれなかったんだろうな。けど……東のフィールドを突破するのはともかく、師匠の分もとなるとアイテムバッグの容量が心細いんだけど……
「うむ。じゃろうと思って儂のアイテムバッグを持って来た」
師匠……手回しが良過ぎます。泉の場所はともかく、水汲みの方は上乗せで発注する気でしたね。
「おぉ、そうじゃ。この手形を持って行くと良い。少しは役に立つじゃろう」
通行手形みたいだけど……詳しい説明は無しですか?
「……それでは行って参ります」