第四十四章 篠ノ目学園高校(水曜日) 3.放課後~親水公園~(その2)
本作の書籍版およびコミカライズ版が発売される事になりました。タイトルはウェブ版と同じで変更はありません。
書籍版・コミカライズ版ともに幻冬舎コミックス様から、それぞれ11月29日と24日に発売になります。なお、電子版も同時発売の予定です。
書籍版のイラストは、コミカライズ版の作画をお願いしている三ツ矢彰さんです。
書籍化に当たっては、新たに挿話を六篇書き下ろしました。いずれもレアスキルに関する裏話的なあれこれです。各レアスキルの曲者振りが能く判る話になっております。
コミカライズ版(バーズコミックス)の方は、デンシバーズ読者の方は既にご存じでしょうが、ウェブ版とは少々異なる雰囲気になっておりますので、ウェブ版をご覧になっている方にも楽しめるかと。こちらの方も、巻末に挿話の形で一話書き下ろしてあります。
思いがけない要の台詞に、自分の行ないを振り返って、そこはかとない不安を抱く蒐一。人魂との契約を切ったのは拙かったか?
「僕、すぐに契約を解除したんだけど……?」
「あぁ、蒐の場合は人魂の意思を確認してそうしたんだろ?」
「蒐君の場合は問題無いと思うのよ。でも、私たちだと……」
「下手をするとカルマが増える可能性があるんだよ」
「だから、蒐君が来てくれれば万事解決……もがっ!」
「茜、お前、ちょっと黙ってろ」
う~ん……要ちゃんの発言は理解できるけど……でも……
うんうんと悩み始めた蒐一に、要が声を掛ける。
「一応この件はパーティに持ち帰って検討するけど、蒐君を頼りにしてる事は憶えていてね?」
「要たちはともかく、俺たちはどうにもならないからな」
「あれ? 匠たちは従魔術師さんに出会ってないの?」
「昼休みに聞いたばかりだし、草の根分けて探した訳じゃないけどな。けど、街中でヘルファイアリンクスなんか連れ歩いていたら目立つ筈だが、これまで見た事は無いからな。一応探してみたいんだが……良いか?」
要の方へ視線を向けて問いかける匠。
「えぇ。この件に関しては、うちのリーダーが掲示板に流してる筈だし、問題無いわよ」
「え? 掲示板に載ってたか?」
「その筈だけど……?」
後日確認したところ、従魔術師専用掲示板にだけ情報を流し、魔術師向けの掲示板には流さなかった事が判明した。本人曰く、一番興味を持っていそうな者が集う掲示板に載せたとの弁であったが、既に従魔術を取得している者に流して、未取得の者に情報が流れないのは如何なものか。
まぁ結果的には、掲示板を見た従魔術師から周囲に情報が拡散していったのだが。
「まぁ良いか……問題無いなら、うちの魔術師にメール送っとくわ」
「待てよ匠。何で魔術師の人だけなんだ?」
「え? ……魔術師以外でも取得できんのか、従魔術?」
「可能性はあるだろ? 匠だって火魔法を持ってるじゃん」
「そりゃそうだが……俺たちが持っててもメリットは少ない……よな?」
「斥候の人はどうなんだよ? 小鳥を偵察に飛ばしたり、犠牲者から死霊術で情報を聞き出したりさぁ」
意表を衝いた蒐一の指摘に、う~んと唸って考え込む匠。そう言われてみると、従魔術や死霊術が斥候職にとって物凄く有用な……否、必須とも言える技術のように思えてくる。
「……とりあえず、斥候役と回復役にもメール送っとくわ」
さすがに壁役は無関係だろう。MPもそこまで多くはない筈だ。
死霊術の一件がなんとか収まったところで、手近の自販機から飲み物を買って四阿で寛ぐ四人。しばし他愛ない雑談に興じていたが、茜がふと気付いたように問いかける。
「ねぇねぇ、蒐君、そういえばナントカの植木って、どうなったの?」
「……ナントカの芽生えクエストの事?」
「そう、それ!」
「二人とも……【ズートの芽生えクエスト】ね。それで、どうなったのかしら、蒐君?」
「さぁ? 僕にしても確認のしようが無いし」
「そうなのか?」
「あのさ、匠、しがない冒険者に領主様のお屋敷の中の事なんか、判る訳ないだろ?」
「つまり進展は無いって事なのね?」
「うん」
「そっか……ねぇねぇカナちゃん、この話、掲示板に載せるの?」
茜の質問に考え込む一同……いや、蒐一は他人事のような顔をして缶コーヒーを飲んでいる。
「他人事みたいな顔しやがって……」
「あのさ、匠、何でもかんでも僕に押し付けるなよ。大体、掲示板に流すかどうかって事は、他のプレイヤーへの影響とゲームの進展を考えての事だろ? 僕みたいなボッチの初心者に判る訳無いじゃん」
不満げな匠を一蹴すると、蒐一は要に向かって訊ねる。
「で、どうすんの?」
「そうね……詳細は暈かしても、亜人たちと交流を持つべきという事は書き込むべきだと思うんだけど……」
「うん、じゃぁ、宜しく♪」
うん。こういうのは匠か要ちゃんに任せるのが一番だよね。