第四十四章 篠ノ目学園高校(水曜日) 2.昼休み~屋上~
昼休み、要ちゃんを交えた僕たちは屋上で昼食を摂っていた。
「結局、匠君は弟子入りするの?」
「あぁ。蒐にも唆されたし、受けようかと思ってる」
「おい匠。唆されたって何だよ。人の厚意に感謝ぐらいしろよ」
「その判断で間違ってないと思うわ。……だとすると、私たちも対人戦の訓練をした方がいいのかしらね?」
「とりあえず、俺たちが稽古を済ませてからにしちゃどうだ?」
「ねぇ! 二人とも、僕に対する暴言はスルーなの!?」
「はいはい、落ち着いて、蒐君。卵焼きあげるから」
「……ありがと、茜ちゃん」
……買収された訳じゃないからね。
「んで、要たちの方は何かあったのか?」
「えぇ、大きなイベントが、ね」
「従魔術、取得したよ!」
「「は?」」
うん。僕と匠が聞き返したのも無理ないよね?
・・・・・・・・
「従魔術かぁ……」
うん。要ちゃんに事情を説明してもらったけど、驚いたとしか言えないな。魔術師の女の子三人が一気に従魔術を取得するなんて。
事の次第を説明すると、「ワイルドフラワー」の三人が【テイム】を取得すると同時に、新たなスキル【使役獣育成】が自動的に取得済みになり、【従魔術(仮免許)】のアーツが表示されていた。実際に使役獣のテイムに成功すると、アーツの表記から(仮免許)がとれて【従魔術】と表示されるようになる。
ちなみに、シュウイは従魔を得はしたが、【テイム】の成功どころか使ってもいない――シルはクエストの報酬として得た――ので、ずっと仮免許のままであった。【召喚術(仮免許)】に至っては触りもしなかったのだ。
「なぁ匠、これもゲームを進めるための鍵ってやつなのか?」
「いや……どうだろうな。俺の場合の対人戦スキルについては、街道の護衛クエストに関わってくるんじゃないかって言われたけど……従魔術はなぁ……」
「そうね。私もゲームの進行に直接関わる可能性は低いと思う」
「そうなの?」
「従魔術……というか、モンスターの懐柔が必要になるクエストが、この時点で起きるとは考えにくいわ。新しく従魔術を取得したプレイヤーの存在が鍵となるシナリオって、考えにくいと思うから」
「あぁ……そう言われると……」
「多分これは……蒐君の場合と同じなんだと思う」
「僕?」
「えぇ。亜人やモンスターとの交流を促しているんじゃないかしら」
「む~」
「それ、アリかもな……」
亜人やモンスターとの交流って……まさかと思うけど、僕が取得した死霊術も?
「だったら、掲示板に載せた方が良いのか?」
「いえ……ここへ来て急に事態が大きく動いたし……もう少し様子を見たいわね」
「そうだな……。少なくとも蒐の墓掘りの話を聞いてからだな」
あ~……風向きがこっちへ変わったか……
「うん……人魂……と言うか犬魂をテイムしたら変な死霊術が生えて、【使役術】に統合された」
「「「……は?」」」
うん。そうなるよね……。
・・・・・・・・
「……変な属性が付いたのはともかく、蒐の死霊術も……その……モンスターとの交流を図れっていう、運営側のサインなのか?」
「いえ……いくら何でも、そこまで変なルートにサインを仕込むとは考えにくいわ。これは普通に裏ルートでしょうね」
「裏ルートって、何?」
「あぁ、スキルとかアーツを獲得するための、正規でないルートだ。β版の頃から、そういうルートがあるんじゃないかっていう話は出てたんだけどな」
「蒐君のケースがそれなんだと思う」
そうなんだ……
「んで? 要たちはアンデッドをテイムしてみる気はあるのか?」
裏ルートで死霊術を獲得する気があるのかという匠の問いに対して……
「あたしは嫌っ!」
「そうね……一応他のメンバーにも相談してみるけど……ウィスプくらいならともかく、私もアンデッドのテイムは気が進まないわね。でも……」
「あ~……アンデッド系のモンスターって、漏れ無く闇属性を持ってるからなぁ……」
キョトンとした顔付きの蒐一に、匠と要が説明する。曰く、闇魔法は光魔法と並んで取得しにくいため、闇属性を持つアンデッドモンスターは従魔術師や召喚術師の狙い目らしい。ただ、現時点ではアンデッド系のモンスター自体が確認されていないため、キャラクタークリエイトで死霊術師を選んだプレイヤーは涙目だったらしい……今までは。
「けど、蒐が死霊術を解放したからな。これからは闇魔法を使える死霊術師プレイヤーが増える可能性がある」
「その対抗策として、こっちも死霊術を獲得するかどうかという事なのよ」
「普通に光魔法とかは駄目なの?」
「そっちはそっちで取得しにくいからな……」
「蒐君に任せれば大丈夫!」
「それはそうかもね……」
「蒐、早いとこナンの町に来い」
……え? 僕が死霊術を使う流れなの?