第四十四章 篠ノ目学園高校(水曜日) 1.一年三組教室~始業前~
「……で、匠はなんて答えたんだよ」
「しばらく考えさせてくれって言って、その場は逃げた」
「あ~……僕みたいにソロじゃないから、即決はできないよね」
「弟子入りってなるとなぁ……」
ナンの冒険者ギルドの訓練場で、匠……いやタクマは弟子入りクエストに遭遇していた。タクマを指導した男から見込みがあると言われ、弟子入りする気があるかどうかの打診を受けたのである。
「メンバーの人たちは? なんて言ってるのさ?」
「俺の希望を尊重するってよ。弟子入りっつってもクエストだから、そんなに時間はかからない筈なんだと」
「あ~……成る程……」
うん。匠のこれがクエストだとしたら、そんなに長い時間束縛する筈が無いよね。メンバーさんたちの意見は妥当かな。
「その点では僕も同意見かな。ただ、誰某の弟子っていう肩書きというか立場は、多分そのまま継続するから注意しなよ?」
「あ、やっぱ、クエストが終わったらそれっきりって事じゃないのか?」
「違うと思うよ。称号とかと違ってステータスボードには表示されないけど、師弟の絆みたいなのはあるから。でもまぁ、それがプレイヤーの行動を縛るとは思えないけどね」
蒐一の指摘に考え込む匠。
「蒐はどっちが良いと思うんだ?」
「受けとけば? 経験から言えば、弟子入りしたからって、別段損をするとは思えないし」
あっけらかんと言う蒐一に、少し気分を害したような匠。
「他人事だと思って……」
「実際、他人事だしね。けど、師弟という形で住人と繋がりを持っておいて、悪い事は無いんじゃない?」
そう言われた匠は再び考え込む。
「……けどなぁ、やっぱ、俺が稽古を付けてもらってる間、パーティが動けなくなるのはなぁ……」
「あのさ匠、お前、色々と勘違いしてるから」
溜息を一つ吐くと、蒐一は状況を整理してみせる。
「まず第一に、お前が常にパーティに参加する必要があるかどうかって事がある。一時的に匠がパーティから外れるんなら、何の問題も生じないから」
「あ~……まぁ、そう言えばそうなんだが……」
「第二に、時間を取られるのは稽古にであって、弟子入りにじゃないぞ? 匠はもう稽古に行かないつもりなのか? この後も稽古を受けるつもりなら、弟子入りの如何に拘わらず、時間は取られるからな?」
「それは……そうか」
「第三に、他の人たちは稽古を付けてもらうつもりは無いのか? みんな一緒に稽古を受ければ良いじゃん」
「むぅ……」
「てかさ、匠、弟子入りクエストの報酬って何だよ?」
そんなに良いもんなのか?
「あ、それな。対人戦、特に捕縛のスキルだった」
は?
「いやいやいや、匠、そんなスキル必要なのか?」
「多分な。マギルなんかは、次の段階へ進むのに必要なんじゃないかって言ってる」
「はぁ? だったら悩む必要無いじゃん。取る一択だろ?」
何を悩んでいるんだと思っていたら……
「いやな。対人制圧スキルなら、蒐に教わる手もあるからな」
あ~……それかぁ……。
「けどさ、歌枕流の捕り手術が、条件を満たすかどうかは判らないじゃん? ひょっとして、単純にクエストの達成が条件なのかも知れないし。第一、僕に教わっても短時間で済む訳無いじゃん。SRO内での方が、時間の加速がある分早いんじゃない?」
「あ~……確かにそうか……」
「つかさ、もう一度稽古を受けたら、他の人にも弟子入りクエストが始まったりしないかな?」
「あ、そうか……二回以上稽古を受けるのがクエスト発生の条件って事も……」
「あり得ない話じゃ無いだろ?」
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