第四十三章 ナンの町 2.「マックス」(その1)
シュウイが墓掘りに勤しみ、「ワイルドフラワー」が住民の従魔術師との出会いを目前に控えている頃、タクマの所属するパーティ「マックス」の面々は、ナンの町の冒険者ギルドへ向かっていた。いつものように討伐依頼を受注するためではない。今回、彼らは二つの目論見を抱いて冒険者ギルドへ――正確には冒険者ギルドにある訓練場へと向かっていた。
第一の目的は住人との交流を深める、あるいは広げる事。リアルで要たちと検討した内容を持ち帰ったタクマが、パーティメンバーと協議した結果、これまでにプレイヤーが関わってこなかった住人と接触してみてはどうかという話になった。冒険者ギルドにはほぼ全てのプレイヤーが訪れるが、ギルドの職員との会話は事務的なものになりがちである。また、最初の町であるトンの町では訓練場を使用するプレイヤーもそこそこいるが、ナンの町に来てまで訓練場を訪れる者はほとんどいない。そんな暇があるならクエストの消化やレベル上げに邁進するのが攻略組である。
「……とはいえ、このところ行き詰まっていたのは事実だからな」
「タクマが持ち帰った提案は、案外と突破口になるかもな」
どれだけフィールドでモンスターを狩っても一向に次の町へのルートが開かれない事にうんざりしていたメンバーは、半ば息抜きも兼ねて、タクマの提案に乗る事にしたというのが実情であった。
「それに、タクマのリア友の言う事が本当なら、隠しクエストの可能性もあるし」
「そうでなくても、スキルアップの可能性がある。やってみて損は無いしな」
ギルドの訓練場にやってきたもう一つの目的。それは何の気無しにシュウイが漏らした一言が切っ掛けになっていた。
『冒険者ギルドの指導係の人は、住人と異邦人で教え方を変えてるって言ってたよ』
冒険者ギルドの訓練場で弓術の指導係からシュウイが聞き出した一言。それはつまり、自分たちプレイヤーが知らない技術を住人が知っている事を暗示していた。上手く話が転んだら、指導係に教えを受けるというクエストが発生するかもしれない。そうでなくても、教育係の指導を受ける事で、自分たちの技倆が上がるかもしれない。それがタクマの所属するパーティ「マックス」の目的であった。
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「訓練場を使わせてもらっても構わないか?」
「ほう? 異邦人にしちゃ珍しいな」
ギルド職員との問答で、今までのプレイヤーが訓練場を使用していない事を察したタクマたち。
「偶には初心に立ち返って基本の稽古をしないとね。変な癖が付く前に」
「おう、良い心懸けじゃねぇか。係の者が暇そうにしてたし、ちっとばかり見てもらうが良いぜ」
職員と言葉を交わし、それぞれ――今回はリーダーで剣士のサント、サブリーダーで双剣使いのタクマ、魔術師のマギルの三人――が希望する訓練内容の申請を済ませてから訓練場に向かう「マックス」のメンバーたち。
「……クエスト、まだ始まってないよな?」
「条件を満たしていないか、見込み違いか……」
「まぁ、会話からみて訓練場に行く事は間違いじゃないみたいだし、とりあえず行ってみよう」
「マックス」の面々は訓練場の扉を開いた。