第四十二章 運営管理室 1.死霊術(その1)
シュウイが墓掘りクエストを受注した時、対応を巡って運営管理室は紛糾した。干渉すべきか否か、干渉するとしてどのように干渉すべきか。
「墓掘りクエストの報酬はスキルだけだ。『スキルコレクター』の効果――クエスト報酬としてスキルを得にくくなる――が出てくる余地は無いぞ?」
「スキル以外の物品を渡すか? あのプレイヤーも『スキルコレクター』の特性は知っているだろう。納得するんじゃないか?」
「だが、何を渡す? 彼は明日にはログインしてくるんだ。ちんたら賞品を選んでいる暇は無いぞ?」
「除霊関係のアイテムとかは?」
「都合の良いものがあるのか? 普通に店売りしているような品だと見劣りがするぞ?」
「聖魔法のスキルを得られる数少ないクエストだからなぁ……」
「レアリティーに応じたものとなると……」
思案投げ首の面々に割って入ったのは徳佐である。
「聖魔法に限らず魔法絡みのスキルは、何かの素材を使用する事が多い。この際、素材を消費するスキルは何でも与えておかないか?」
徳佐の提案に考え込む一同。要はシュウイに聖魔法を与える危険性と、シュウイが狩り集めるレア素材が過剰に流通する危険性のどちらをとるかという問題であった。
「……確かに、あのプレイヤーが拾うレア素材は脅威だからなぁ……」
「それを考えると、徳さんの意見も頷けるか……」
「彼がレア素材を流す危険性は以前に検討したが、彼が聖魔法を得た場合の危険性はどうなんだ? 何か問題が起こるか?」
大楽の疑義に揃って首を傾げる運営管理室スタッフたち。
「聖魔法と言ってもなぁ……基本的には闇魔法に対するアンチテーゼみたいなもんだし……あとは回復の効果が高まるくらいか?」
「闇属性の敵の弱体化と、味方に対する支援が基本だな。有効だが、使い所は限られる」
「だとしたら……バランスブレイカーにはなりにくいか?」
「というか、『スキルコレクター』自体が既にバランスブレイカーなんだ。今更聖魔法を追加したところで、大した水増しにはならんだろう」
こういった次第で、シュウイの墓掘りクエストの報酬としては、予定どおり聖魔法(初級)が用意された。
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「……彼は何を考えているんだ?」
「人魂をテイムって……」
「普通に話しかければ良い筈だよな?」
「面白い事をする子だなぁ」
シュウイが人魂に対するテイムを敢行した事に対するスタッフの反応は困惑であり、一部の者が面白がっていた……唯一人を除いて。
「……拙い……」
「どうしたんですか、大楽さん?」
ただならぬ様子の大楽を見たスタッフの一人が声をかけるが、その答えは別の者からもたらされた。
「……プレイヤーが死霊術を獲得しました」
無機的な中嶌の声に、一瞬動きを止めるスタッフたち。数秒の後に運営管理室が狂奔する。
「どういう事だっ!?」
「大楽っ! 何をやった!?」
納得のいく説明を求めて大楽に詰め寄るスタッフたち。追い詰められた様子の大楽が力無く答える。
「……裏ルートだ。死霊術を獲得するための……」
「裏ルートだぁ?」
「……実行する者がいるとは思わなかった……」
頭を抱え込む大楽を見て、同じように頭を抱え込むスタッフたち。そんな彼らに無情な追い討ちがかかる。
「……従魔術・召喚術・死霊術が、上位アーツ『使役術』に統合されました」
呻き声が部屋に充ちた。