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第四十一章 トンの町 2.墓掘りクエスト(その2)

「……人魂……だよね、あれって……」



 小さな小さな人魂――ともすれば蛍と見間違えそうになる――が、墓穴の周りと木の陰を悲しそうに往復している。



「……あれ? 何で墓穴が残ってるの?」



 骨壺を取り出した時点で穴は埋め戻され、綺麗に(なら)された筈である。なのに、そこにはぽっかりと墓穴が残っている。シュウイが掘ったよりも深い穴が。



「あぁ……これがクエストなのか……何だか悲しそうだし、理由を探って解決するタイプのクエストかな?」



 クエストと判ればそう怖くはない……怖くない筈だ。注意して眺めていると、木の陰に小さな墓石のような物があるのに気が付いた。



「あぁ……多分あのお墓を、墓穴が示す墓標の傍に移してやれば良いのかな」



 図面で確かめてみると、残っている墓穴に埋められていたのは、まだ幼いままに死んだ少年のようである。さしずめあの人魂はペットの霊魂なのか。ただ、そうと決めつけて移して良いのかどうかは判らない。ストーカーの墓という可能性だってあるではないか。


 さてどうしたものかと悩むシュウイであったが、懐のシルの動きを感じた時点で、自分が問題解決のための手段を持っている事に気付く。……いや、少なくともその時のシュウイには、実に妥当な方法のように思えた。



「解らなければ、()けば良いよね。テイム!」



 シュウイはSRO(スロウ)初……ひょっとするとゲーム史上初となるかもしれない人魂へのテイム(・・・・・・・)を敢行した。



 シュウイの手先と人魂が淡く光り、テイムが成功した事を告げる。



「お前は何をしてるの?」



 シュウイの問いかけに人魂はピクリと震え、()()ずと答えた。



『ご主人……いなくなった』



 泣きそうな声にくらっとくるシュウイ。現実で「微笑みの悪魔」、「惨劇の貴公子」などの二つ名を持つ彼だが、幼い子供やペットには優しい事でも知られていた。



「お前のご主人は引っ越したんだよ。お前もついて行きたい?」

『行きたい!』



 しばらく考えたシュウイは、連れて行っても大丈夫だろうと判断する。連れて行って問題が起きれば、その時対処すれば良いだけだ。



「じゃあ、お前のお墓も移そうか?」

『お願い!』



 千切れんばかりに尻尾――人魂の炎が後ろに伸びた部分――を振って、嬉しい事を表現する人魂。あぁ、この子って犬だわ、とシュウイは気付く。墓石の下を軽く掘ると小さな骨壺が現れたので、それを取り上げる。地面が淡く光って墓穴と墓石が消える。振り返ってみれば、いままで開いていた少年の墓穴も綺麗に消えている。



(やっぱり、これで良かったみたいだね……)



 図面で確認しておいた少年の墓標の傍へ、犬――多分――の骨壺を埋めてやると、その場所に小さな墓標が現れた。その周りを人魂――多分人ではない――が嬉しそうに跳ね回っている。ますますもって犬に相違ない。ほっこりとしているシュウイの耳にお馴染みの電子音が聞こえてくると、目の前にウィンドウが出現する。



《ウィスプを従魔にしますか? Y/N》



 シュウイはしばらく考えると、しゃがんで人魂……ではなくウィスプに問いかける。



「ねぇ、お前はこの後どうしたい?」



 ウィスプはビクッとしてシュウイの方を向いたが、()()ずと答える。



『ご主人と一緒にいたい……』



 だよねーっと(うなず)くと、シュウイは迷わずNをタップする。



《ウィスプの従魔登録が解消されました》



 うんうんとウィンドウを見て(うなず)くシュウイとシル。やっぱりペットは大好きな飼い主といなくちゃね、と満足げにウィスプを振り返ると、そこにはぼんやりとだが子犬の頭を撫でる少年の影が出現していた。子犬は千切れんばかりに尻尾を振っている。少年はシュウイに気が付くと、深く頭を下げてきた。子犬もシュウイに気が付いたらしく、尻尾を振って嬉しげに吠える。(なご)んでそれを見ていたシュウイの耳に再び電子音が響くと、ウィンドウが姿を現して運命を告げる。



《霊魂の(ゆう)()を得ました》


《称号『霊魂の友』を得ました。以後、霊魂の好感度が上昇し、様々な便宜を図ってもらえるようになります》



「……何それーっっ!?」



 シュウイ(こわがりさん)の悲鳴が夜の墓地に響いたのであった。



・・・・・・・・



 その後、ぐったりと疲れたシュウイが教会に戻ると、シスターが迎えてくれた。



「あらあら、お疲れ様」

「えぇ……少し疲れました。……あ、そうだ。犬の墓があったので、勝手ながら新しい場所に移しておきました」

「……あらあら、まぁまぁ、忘れていたわ。ありがとうございます」

「移して良かったんですよね?」

「えぇ。仲の良い二人でしたからね。きっと喜んでいるでしょう」

 喜んでました。


「慈悲深い貴方に神のお恵みを」



 シスターが祈ると同時に、電子音が響いてウィンドウが浮かび上がる。



《聖魔法(初級)を得ました》


 お、スキル貰えたんだ。ラッキー♪


死霊術(ネクロマンシー)(聖)を得ました》


 ……は?


《プレイヤーの一人がアンデッドの使役に成功しました。これによりネクロマンサーシステムが解放されます。今後、死霊術のスキルを持っているプレイヤーは、アンデッドを使役する事ができるようになります。関連する情報がアンロックされましたので、該当するプレイヤーはスキルの説明をご覧下さい》


 ……何?


《従魔術・召喚術・死霊術が、上位アーツ【使役術】に統合されました》


 ちょ、ちょっと待って!?

人魂から話を聞こうとしてシュウイは【テイム】を使用しましたが、別にそんな突飛な事をしなくても、普通に話は聞けました。また、会話無しで犬の墓を移してやるだけでも、クエストは一応クリアーになりました。ちなみに、このクエストは一応リピータブルクエストです。また、ウィスプを従魔にする事を選択すると、友誼と称号は得られません。

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