第四十一章 トンの町 1.墓掘りクエスト(その1)
SROにログインしたシュウイは、冒険者ギルドへ行って自分宛の指名依頼となった墓掘りを受注すると、昨日に続いて教会へと向かった。
「お早うございま~す」
「あらあら、昨日のぼう……冒険者さんね。お待ちしてましたよ」
……今、坊やって言おうとしたよね……?
「……どうも。夕べのお話では、新築用地を確保するために、古い墓地を整理して新しい区画に整然と埋め直したいとの事でしたよね?」
「あらあら、そうなのよ。今はどこが誰の墓かすら曖昧なものだから」
「……間違いなく移せるんでしょうね?」
間違った墓に移して祟られるって落ちじゃないよね?
「あらあら、大丈夫よ。夕べのうちにきっちりと確かめましたからね」
本当に大丈夫かなぁ……
「解りました。それじゃ、どこから始めれば良いですか?」
報酬は聖魔法絡みのスキルだっていうから、受けない手は無いよね。「スキルコレクター」のせいで報酬が変更になるかも知れないけど……除霊の魔道具だったりしたらそれはそれで嬉しいし……。
斯くしてシュウイは墓掘りクエストを開始した。指定された場所を少し掘ると地面が光って骨壺が現れ、掘った跡は綺麗に均される。教会の墓地に何で骨壺という気はしたし、絵面の違和感が半端無かったが、棺桶を運ぶよりは楽だからだろうと勝手に納得して骨壺を取り出す。それを新たに指定された場所に持って行き、少し穴を掘ると、またしても地面が光り輝く。光が収まるとそこには墓穴も骨壺もなく、新しい墓標が建てられていた。ついでにシュウイが持つ地図の一枡が黒く塗りつぶされている。
(こういうところはゲームだなぁ……)
まぁ楽だから良いかと納得して、シュウイは次の墓を掘りに戻る。日が暮れかかる頃には、予定区画の三分の二を移し終えていた。
(これなら明日には終わるよね。続けてやれば今夜中には終わりそうだけど……)
どうしたものかと思案するシュウイの前に、お馴染みの電子音とともに浮かび上がるウィンドウ。
《作業を続けますか? Y/N》
(あ……ここで選択肢が登場するのか。多分Yを選ぶとクエストに突入するんだろうけど……)
シュウイは悩んだ。これまでに無かったほど深刻に悩んだ。
今更の話であるが、シュウイは……いや、巧力蒐一は怪談や幽霊の類が苦手である。それはもう苦手である。
容赦の無い幼馴染みたちに――苦手克服のための特訓と称して――その手のDVDを延々と見せ続けられたお蔭で、視覚的な刺激には大分耐えられるようになったものの、不意の皮膚感覚――ヒンヤリした風や蒟蒻が首筋を撫でるの類――には依然として弱い。そういうシュウイにとって、あからさまに怪談めいているこのクエストは鬼門であった。
悩んでいるシュウイの懐で、ごそりとシルが身動ぎする。
(……うん。大丈夫だよね。僕にはシルがいるし……クエスト失敗なら失敗で良いさ。一部始終を話して、匠たちに仇を討ってもらおう)
腹を括ったシュウイは、決然とYをクリックする。すると、教会からシスターがやって来るのが見えた。
「あらあら、ご苦労様。もう日が暮れるから、続きは明日にしなさいな」
早速心が折れかけるシュウイであったが、惰弱な心を叱咤して否と答える。
「いえ、あと少しですから、このままやっちゃおうかと」
「あらあら、それじゃあ灯りを持ってくるわね」
流れるような受け答えの後で、シスターは教会から角灯のようなものを持って来た。かなり明るく、片手で提げて持ち運びできるので、今夜の作業にはうってつけである。シュウイはありがたく角灯を受け取った。
「シル、万一お化けが来たら、お前が頼りなんだからね。しっかり頼むよ?」
そう言うと、シルは任せろと言うように大きく頷いた。その態度に少し安心して、シュウイは墓掘り作業に向かう。敢えて何も考えないように、周りに目を向けないようにして、只管作業に勤しむシュウイ。もはやクエスト達成のシグナルを見落とすとかどうとかなど、考えてもいない。何のためにこのクエストを受けたのかと言いたくなるが、それでも指定された全部の墓を恙無く移し終える事に成功する。
「……終わった……」
無事墓掘り作業を終えた事に深く深く安堵して、ようやっとシュウイは周りを見回す余裕を取り戻した。そのシュウイの眼に、見たくなかった光景が飛び込んでくる。