第四十章 篠ノ目学園高校(火曜日) 2.放課後~ファミリア~
天気が好ければ親水公園に行く予定の蒐一たちだったが、空模様が怪しいというので急遽寄り道先をレストラン「ファミリア」に変更する。
「う~……また太っちゃうよ~」
「茜ちゃん、別に甘い物食べる必要は無いんじゃない?」
「レストランへ来て甘味を注文しないなんて、スイーツに対する侮辱だよ~」
定食や軽食に対する敬意はどうなるんだと困惑する蒐一と匠だったが、勿論そんな事を口に出さないだけの分別はある。
「う~……エクセレントプリンパフェにする~。こないだカナちゃん食べてて美味しそうだったし」
「そう? じゃぁ、私は抹茶ケーキセットにしようかな」
「あ、僕は若鶏のスープパスタね」
「んじゃぁ俺は……ネギトロ御膳大盛り」
「匠……それってもはや軽食じゃないよな?」
「育ち盛りだからな!」
「……僕ももう少し食べた方が良いのかな……」
「蒐君、育ち盛りだから食べるんであって、食べたから育ち盛りになる訳じゃないのよ?」
「匠~、要ちゃんが虐めるよ~」
いつもどおりの平穏な光景であった。
注文した料理を食べている間は会話も少し控えめになるが、食後のコーヒーなどを注文する頃には、再び話題はSROの事になっていた。
「蒐の墓掘りについては、今日の結果が出るまでは判らんとしてもだ」
「問題は【ズートの芽生えの移植】クエストよね。クリアーのアナウンスだけがあって、何の報酬も無かったっていう」
「そう。ちょっと調べてみたんだが、クリアーのアナウンスだけがあって報酬が無いというケースは報告されていない」
「蒐君のが初めてのケースになるわね」
「蒐、この一件、掲示板に上げたか?」
「上げてないよ? 大体、やり方知らないし。上げるべき?」
「いや……そうだな……」
「上げるにしても、現時点では情報が少な過ぎよね」
「チェーンクエストの可能性もあるし、もう少し様子見か?」
「というかさぁ、これって正解、あるの?」
疑わしげに問いかける蒐一だが、他の三人もう~んと唸るしかない。
「どこかに植えさえすれば良いんであって、どこに植えるかは正解が無い……って事なら、クリアー報酬は出ない……のか?」
「でも、だったら何でクエストにしたの?」
「茜ちゃんの言うとおりだよね。態々クエストだって教える理由があるのかな?」
蒐一たちの疑問に対して、解答案を示したのが要である。
「ひょっとしたらだけど……疑問を持ってもらう事自体が目的……つまり、次にこのクエストを受ける誰かに違う選択をしてもらいたいのかもね」
「え? 僕の選択、間違いだった?」
「ううん。そういうんじゃなくって、様々な選択をするプレイヤーが増えて欲しいのかなって」
「……て事は、リピータブルクエストだよな?」
「そうね。それで、クエストをクリアーしたプレイヤーには、選択に応じて違うルートが用意されているんじゃないかしら?」
「あー……あるかもな」
「でもさ、要ちゃん、それだったら何で、こんなレアなクエストにしたのかな? もっと見つけ易いクエストにした方がよかったんじゃないの?」
「いや、そりゃ逆なんじゃないか? 達成者が少ないクエストだからこそ、確実に違うルートに誘導したいんじゃないか?」
ややこしい議論になって困惑し始めた一同であったが、ここで茜が本質的な問題を衝いた質問を放つ。
「ねぇねぇ、だったらこの話、他のプレイヤーが知ってなきゃ駄目なんじゃない?」
「あ……そうか」
「早い時点で掲示板に上げる必要があるのか?」
「それとねぇ、このクエストを受けるには、森のリスさんたちと仲良くならなきゃ駄目なんじゃない?」
「あ……」
「運営の狙いはそれか?」
う~むと考え込む蒐一たち。どうやら、かなり重要な選択を迫られているらしい。これは軽々しく決められる事ではないと感じた蒐一たちは、一晩熟考する事にした。
「蒐の墓掘りクエストも何か関係してくるかもしれないしな」
「匠……僕の墓を掘るみたいに聞こえるから、言い方変えようよ……」