第四十章 篠ノ目学園高校(火曜日) 1.昼休み~食堂~
「……んで? 結局受けたのか? 墓掘り」
この日は天気が怪しいという事で、蒐一たちは屋上ではなく食堂で弁当を使っている。いつものように蒐一がやらかした事をネタにして盛り上がろうと、昨日やった事をざっと説明させていたら、「墓掘り」という胡乱なワードが飛び出してきたので説明を求めていたところであった。
「一応ね。もう夜になるのでその日の作業は無理って事で、今日改めて行く事にしたけど。ギルドの方には僕の指名依頼って事で発注するみたい」
「へぇ~、蒐君、もう指名依頼が入るようになったんだ~」
「よしてよ、茜ちゃん。こういうのって、正しい指名依頼とは違うと思うんだ」
「……まぁ、確かに色々と違ってんな……」
「けど、間違ってるとは言えないわよね」
「抑、教会の修繕なんてクエスト、あったのか?」
「庭木の剪定もそうだけど、多分何らかの条件を満たす事で発生するクエストだと思うわ」
「ランクアップのために必要……ってのが条件か?」
「多分、条件の一つね。普通の手順でランクアップしたら、発生しないクエストなんじゃないかしら」
「あ~……」
「蒐君、普通とは色々と違っちゃってるから……」
「ズートの芽生えクエストも気になるけど……今は墓掘りの話だよな」
「蒐君、詳しい話を聞かせてくれる?」
「あ、うん。墓掘りって言っても、墓地の整理って言う方が正しいかな。今の建物が老朽化してるから新しい教会を建てようって事になって、その敷地確保のために墓地を移転するみたい」
「……何つーか……」
「急に生々しい話になってきたわね……」
「ねぇねぇ蒐君、それって一日で終わるの?」
「あ、そう言やそうだ」
「茜ちゃんの言うとおり、確かに一日では終わりそうにないわね」
「どうかな……とにかく引き受けざるを得ない流れだったんだよ。そこまで考えてる暇は正直無かったよ」
蒐一は切々とその時の状況を説明していく。
「……まぁ、断りづらい雰囲気ってのはあるからなぁ……」
「まさにそれだよ。腰を痛めてる神父さんに墓掘りとかさせられないし……」
「……これって、一種のチェーンクエストなのかもね」
「おぃおぃ、それじゃ墓掘りが終わっても、何か別のクエストが続くって事か?」
「可能性はあると思わない?」
「まぁな……この流れでって事になると……」
「お化け退治!」
「よしてよ! 茜ちゃん!」
「あ~……蒐は幽霊系って苦手だったっけか」
「あれが好物だなんて言うやつとは話が合いそうにないよ……」
「え~……でも、小学校の肝試しの時は、お化け役の方が怖がってたじゃない」
「過剰防衛じゃないかって言われてたな」
「あわや刑事事件になりかけたものねぇ……」
「あれはっ! 急に後から首を絞められたら当然の反応だよっ!」
「鳩尾に肘打ち喰らわせて背負い投げ――は、やり過ぎだと思うぞ」
「脳震盪起こして大騒ぎになったよねぇ……」
「だからそれはっ……」
「あれ以後、肝試しは中止になったよな」
一頻り蒐一の旧悪で盛り上がった後、再び墓掘りクエストの話に戻る。
「まぁ、教会で墓掘りなんて条件が揃っている以上、その手のイベントが待ち構えてるのは確実だな」
「うぅ……何でこんな目に……」
「シルちゃんもいるし、大丈夫だよ、きっと」
「茜ちゃん、目と口許が笑ってるわよ?」
「まぁ……一日おいたってぇのは、ひょっとしてその間に道具を揃えろって事なんじゃないか?」
「匠っ! その話っ、詳しくっ!」
今までに無い食い付きっぷりで問い詰める蒐一を目にして、思わずほっこりとする一同。子供が子供らしいのは良いものだ。
(……子供じゃないやい……)
両者内心の思いを押し隠して、除霊関係のアイテムについて討議を始めるのだが……
「浄霊系のアイテムって、教会で手に入れるのがほとんどなんだよな」
「その教会内でのオカルトイベントって……?」
「普通じゃ手に負えないほど凶悪な邪霊か……」
「……冗談だよな? 匠?」
「教会の敷地内だし、危ないお化けは出ないと思う」
「……そうね、茜ちゃんの言うとおり、トンの町でそこまで凶悪な邪霊が出るとは考えにくいわね」
内心ほっとした蒐一であったが、匠が非情な反論を持ち出す。
「……初心者向けのクエストがどうかは判らんだろ? 先へ行ったやつがトンの町へ舞い戻って受けるクエストなのかもしれんし……第一、蒐が掘り出したクエストだぞ?」
「あ~、確かに」
「そこは考慮しないとだわねぇ……」
何でだよ……?
「蒐、もしヤバそうな相手だったら、さっさと撤退しろよ?」
「……そうね。もしも匠君の言うようなケースだと、無理に達成しようとする必要は無いわね」
「……そうする」
「でも、私としてはもう一つの可能性の方がありかな、って思ってるんだけど」
「もう一つの可能性?」
何それ?
「心残りを叶える系のクエストね」
「あ~……そっちの可能性の方が高いかもな」
「心残り……?」
「つまりだな……」
匠を始めとする三人の説明が終わったところで、午後の授業の予鈴が鳴ったのをしおに、皆はそれぞれの教室に引き上げる。話の続きは放課後だ。