第三十八章 篠ノ目学園高校(月曜日) 4.放課後~「ファミリア」~
放課後、今日は話す事が多くなるだろうという事で、僕たちは下校途中にあるファミリーレストラン、その名も「ファミリア」に来ていた。ドリンクバーでも注文しておけば長居をしても嫌な顔をされないので、うちの高校の生徒がよくたまり場にしている。で、僕たちはドリンクバーだけで済ませているかというと……食べ盛り育ち盛り――おい、匠。何で僕の方を見るんだよ――の高校生はそんな節制と無縁な訳で……。
「お待たせしました。デラックスフルーツパフェのお客様……」
「はいはい! こっち」
「エクセレントプリンパフェのお客様……」
「はい」
「大盛りカツカレー、トッピング追加のお客様」
「あ、俺」
「ボンゴレセットのお客様」
「はい、僕」
「以上でご注文はお済みでございますね? それではごゆっくりお召し上がり下さい」
……という事になってる訳だ。まずは腹ごしらえという事で、僕たちは静かに食事を進める。食べながらぺちゃくちゃと話すのは、行儀が悪いからね。ある程度食べ進んだ状態で会話を再会する。
「さっきの話だけどさぁ、住民だけでなくてモンスターとかも気にした方が良いと思う」
「あ~……そう言えば蒐君、ホブゴブリンと仲良くなったんだっけ」
「茜ちゃん、ホブゴブリンじゃなくてホビンだよ。間違えると怒られるからね」
「けどよ、そりゃ蒐が会話スキル……【聴耳頭巾】だったか? そいつを持ってたから交流できたんだろ? 例外ってやつじゃねぇのか?」
「甘いな、匠」
「は?」
「……そうね、蒐君の言う通りね」
「だから何だよ?」
「匠、【聴耳頭巾】っていうレアスキルのためだけに、モンスターや動物に会話の機能を付けると思うか?」
「【聴耳頭巾】の数が思っているよりも多いか、会話スキル以外にもモンスターや動物と意思を疎通する方法がある、そう考えるべきね」
「……えっと、つまり……?」
「モンスターと見れば攻撃するようじゃ、仲良くなる機会を自分で潰してるようなもんじゃないかって事」
「見敵必殺は問題があるって事ね」
「マジかよ……」
落ち込んだ匠を気にも留めず、茜ちゃんが会話に割り込んでくる。
「ねぇねぇ、それって、ドラゴンと仲良くなったりできるって事?」
「確言はできないけど……多分ね」
「実際に蒐君が幻獣を従魔にしてるしね」
「お~」
嬉々とした表情の茜ちゃんと、げんなりした表情の匠。本来の意味とは違うけど、「一喜一憂」って言葉が似合う光景だなぁ……。
しばらくモンスターやNPCとの交流について会話が弾んだ後、匠がふと漏らした言葉が会話の転機となる。
「そういやぁ、トンの町ってクエストが多いのか?」
そんな問いを発せられて顔を見合わせる三人。そもそも他の町の様子に明るくない蒐一はあっさりスルーを決め込んだが、茜と要の二人は考え込んだ。
「ねぇねぇ、匠君、何でそんな事言い出したの?」
「あ? いや、この四人の中で蒐が一番妙なクエストに参加してんじゃねぇか。NPCとの交流が鍵だってのは解るけどさ、ひょっとして場所も関係してんじゃないかと思ってな」
「う~ん」
「あのさ、匠。変なクエストって言ってるけど、盗賊討伐にしろ幻獣の卵のクエストにしろ、ケインさんたちも参加したんだぞ? 弟子入りクエストは他にもクリアーした人がいるだろうし、ホビンたちと仲良くなれたのは【聴耳頭巾】の効果だ。オークキング討伐戦に参加できたのは多分偶然だぞ?」
「いや、蒐が参加したのは偶然かもしれないけどな、俺が言いたいのはクエストの数自体が多いんじゃないかって事なんだ」
「う~ん……けど、盗賊退治と幻獣の卵のクエストは他の町で起きたしなぁ」
「微妙なところかもしれないけど、確実に多いとは言えそうにないわね。どちらかといえば蒐君の遭遇率が高い気がするけど」
「どんなクエストがあるのか、運営が公表してないってのが曲者だよなぁ……」
しばらく考え込んでいた一同であったが、蒐一の発言がその黙考を破る。
「そんな事よりさぁ、匠たちの方は何か進展があったの?」
「そんな事……」
「結構重要な案件だと……あぁ、そういや報告しておく事があったな」
やっぱりな。匠は結構うっかり君だから。
「……その妙な目付きは止めろ。……あ~、こないだ話題になった平衡感覚のスキルな、石とか倒木とかの上を歩くようにしていたら、取得可能になったわ。まんま【平衡感覚】ってスキルだけどな」
「お~」
「どんなスキル……いえ、重ね掛けはしてみたの? 匠君」
「おう。戦闘時に重ね掛けしてみたんだが、確かにバランスを崩す事が減ったな。あと、走る時に少し走り易くなったような気がする」
「へぇ……そうなんだ」
「とりあえず、コストの軽い【平衡感覚】の方は常時発動にして、様子を見てるところだな。似たスキル同士じゃないから、レベルアップに繋がるかどうかは判らないけどな」
「そっちの方は多分間違い無いわね。私たちのスキルはレベルアップしたし」
「あ、そうなの? 要ちゃん」
「えぇ、私も、もう一人も、スキルレベルが上がったわ。私は蒐君に倣って、普段から察知系スキルを重ね掛けするようにしてたから、もう一人の彼女よりも早くレベルが上がったしね。それを見た他のメンバーも、取得できるスキルがないか探し始めてるわ」
「え? でも、スキルスロットを一つ食い潰すんだよね?」
「控えスキルに回す事もできるし、何よりもスキルレベルが上がるというのは見過ごせないのよ」
「そっか」
「要、それ、掲示板に流すのか?」
「皆とも相談したんだけど、少なくとも全員がスキルレベルを上げてからにしようという事になったわ」
「OK。んじゃ、俺も【平衡感覚】については黙っとくわ。その方が俺たちも都合が良いしな」
「あれ? その言い方だと……」
「あぁ。他のメンバーも【平衡感覚】を取得した」
「あたしも取ろうかな……【平衡感覚】」
「あぁ、茜……センには向いてるかもな」
「魔術師にあるまじき体術派だものねぇ……」
一体どういうキャラにしたんだろう、茜ちゃん……。