第三十八章 篠ノ目学園高校(月曜日) 1.LHR~教室~
今日は一時間目の授業を潰してロングホームルーム(LHR)が行なわれる。議題は文化祭に一年三組としてクラス参加するかどうか。クラスの中でも意見が分かれそうだ。
「匠はどっちに入れる?」
「あ~……面倒臭いっちゃ面倒臭いんだが……折角の機会とも言えるんだよなぁ……」
「でもさ、今から参加するとしても、準備とかは大丈夫なのかな?」
「食い物屋なら、そう面倒でもないだろ? 中学の時もやったけど」
「匠は準備サボってたじゃん。調理の手間を別にしても、内装をしっかりやろうとしたら、結構準備に時間がかかるんだよ?」
「んな面倒な事やらなきゃいいだろ」
「それって中学校のレベルじゃん。高校生が中坊と同レベルで良いの?」
「あ~……そういう事かぁ……」
「けど、発表なんかだと間違いなく時間が足りないからね」
「ん? 一ヵ月あるんだから楽勝じゃね?」
「甘いよ匠。一ヵ月でできる事は、所詮一ヵ月程度のレベルなんだよ。第一、何人が参加できるかも判らないじゃん」
「え? クラス参加なんだから全員じゃないのか?」
うん、匠はいつもこんな感じで、読みが浅いんだよね。
「クラブに所属している生徒はそっちに引っ張られるだろ? 実質の戦力は、無所属あるいはクラブ参加を免除してもらえる生徒だけだと思うべきだよ」
「けど無所属って事は……抑その手の行事や段階活動に対する熱意も期待できない……か」
「そういう事。でも、打算という要素もあるけどね」
「打算?」
「うん。こういう学校行事に積極的に参加すると、少しだけど内申点が良くなる筈だよ」
「……マジか?」
「どっかの先生っぽい人が居酒屋で話してるのを聞いた事があるから、多分ね」
「居酒屋って……蒐」
「家族で食事に行った時に小耳に挟んだの。変な誤解するなよ」
僕たちが話しているような事を他の生徒も考えたのか、クラブ参加させられそうな生徒に挙手させて数を数える事になった。
「……三分の一くらいは当てにできないのか……」
「この三分の一には議決権が無い訳だから、残り三分の二で決を採る事になるね」
蒐一と匠がそんな事を話していると、生徒の一人が挙手して発言する。曰く、このまま参加不参加を議決する前に、参加するとしたらどういう形で参加するのかを決めてから、最終的な議決を取るべきではないかという。
確かに、何に参加するのかしないのかが決まっていない段階で、参加の是非を問うというのもおかしな話だ。生徒の動議は取り上げられ、最終議決より先に、何に参加するのかを決める事になった。
「ちょっと意外な気もしたが、言われてみれば当然だな」
「だね。それに、こっちの方が楽しいよね」
話し込んでいる二人の横で、演目が次々に取り上げられては批判されていく。
・研究発表……満場一致で否決。
・喫茶店……メニュー次第で他の組と被る可能性が高く、採算性が微妙。保留。
・猫喫茶……衛生問題で不可。
・寿司屋……黙殺。
・射的……担任から射倖性の高いものは不可と駄目出し。
・綿菓子……器械の当てが無い。自作も可能らしいが学校側の許可が下りるか微妙。第一、高校生にもなって綿菓子を買うやつがいるか?
・ヨーヨー釣り……仕入れの当てが無いし、射倖性云々で却下。
・かき氷……時期的にまだ早くないか? 保留。
・焼き鳥……誰が作るんだよ。
・お化け屋敷……上手くやれるかどうか微妙。ただし、リア充を脅かして憂さ晴らしという意見が一部生徒に対して強い訴求力を示したため保留。
・降霊会……スルー。
・占い……誰がするのかという男子の意見に対して、やってもいいという女子が数名挙手。ゲームか何かのソフトを使うという意見も出て、保留。
・ジャンケン大会……商品とかどうするんだ。
・利き酒……後で生活指導室に来い。
・コスプレ大会……担任が風紀云々を理由に制止。
・ビン割り……
「ビン割り?」
「うん、ストレス発散にビンとか茶碗とかを叩きつけて割るやつ」
「それは……高校生が主催して良いもんなのか?」
しばらく討議が盛り上がったが、万一評判になったら退っ引きならない羽目に陥るんじゃないかとの意見を誰も否定できず、却下となった。
「やるとしたら……占い喫茶かなぁ」
「何で合体させるんだよ……でも、良い案かもな」
「いや、待て。これって、女子の負担が大きくないか?」
「何で?」
「男子で占いできるやついるのか? 仮にいたとしても、男子に手相とか見て欲しいやつがいるか? 同じ理由で、接客も女子中心になりそうじゃないか?」
「よしっ、占い喫茶にしようぜ!」
「男子、サイテー!」
「サボりは許さないわよ!」
「いや、でも、男子に何をやれってんだよ?」
「……調理?」
「調理が必要なメニューなのか?」
「……インスタントと冷凍食品?」
「それ……客が料理を注文しなくなるんじゃないか?」
「あ、バイトでやったから、パスタくらいなら作れるぜ」
「……お前一人でやるのか?」
「え? マジ? オレ一人?」
「……経験者はお前一人みたいだな」
「ちょっ! 今のナシ!」
「男子でも簡単に作れる食べ物って……」
「焼き芋とか?」
「占いの館で焼き芋!?」
「あり得ない!」
紛糾する中で、一人の男子生徒が怖ず怖ずと言った様子で発言する。
「なぁ……どうせならカップ麺は?」
「は?」
「何ソレ?」
「いや……こう、各地各国のカップ麺を百種類くらいずら~っと……」
「「「「「それだ!」」」」」
「一人千円か二千円くらいの予算でさぁ」
「事前にラインナップを決める必要があるよね。購入する店とかも」
「これなら当日クラブ参加で来れないやつも、仕入れくらいはできるよな?」
「あ、間にGWがあるしさぁ、旅行するやつに旅先で仕入れて貰うのは?」
「少し嵩張るけど……高い買い物じゃないよね」
「……なぁ、どこで幾らで買ったかなんてのも張り出したら……」
「あ、主婦層が食い付くかも」
「ついでに食べた人に感想を書いて貰って、空き容器に貼り付けるのは?」
「宣伝になるか、逆宣伝になるか……」
「面白けりゃいいだろ、そんなん」
「……おい、蒐、何か参加の方向で決まりそうだぞ」
「だね……」