第四章 運営管理室
傍若無人なユーザーがいると、大変なのはメーカー側で……
「嘘だろ……」
SROの運営管理室では、一人のスタッフがログを見ながら呆けていた。それを見た年長の男――責任者のようだ――が声をかける。
「どうした?」
「あ……木檜さん、キルされたPKが装備品と所持金の全てを失いました……」
「何? ……バグか?」
「いえ、バグならまだ良いんですが……例の『スキルコレクター』です」
「は? 『スキルコレクター』にそんな効果があったか?」
「いえ、彼がPK三人をキルして……まぁ、これも充分異常なんですが、キルされたPKはデスペナで所持金の三分の一を、【解体】と【落とし物】で残り三分の一ずつを奪われて、所持金ゼロとなったようです。所持アイテムの場合はもっと酷い。【解体】の効果でアイテムバッグもろとも所有権を引き剥がされ、【落とし物】がドロップ品扱いに設定して、あとは寄って集って根刮ぎです」
「何とまぁ……」
この頃には他のスタッフも何かあったらしいと悟って集まって来ていた。その中の一人が、最初のスタッフに声をかける。
「中嶌、『スキルコレクター』の彼はどうやってPKを三人もキルできたんだ? 戦闘スキルは持ってないんだろ?」
「ええ、けど、パーソナルスキルが桁違いに高い。多分リアルで何か武道をやってるか……喧嘩の場数を踏んでるんだと思います」
両方である。
「記録は撮ってるか? モニターに映してくれ……いいですよね? 木檜さん」
「ああ。俺も興味がある。中嶌、やってくれ」
「はい」
こうして問題の殺戮シーンがモニターに再現された。
「【地味】【腹話術】【べとべとさん】……マイナースキルをよくもまぁ使いこなすもんだ……」
「手拭いと石であんなに凶悪な武器ができるのか……」
「てか、あれ絶対武術か何かやってるだろ」
「ステータスアップの効果もあるんだろうが……一撃で頭蓋骨が陥没したぞ……」
「首の折り方、妙に手慣れてませんでした?」
冷静にモニター画面を眺めていた責任者――木檜と呼ばれた男性は、徐に全員を見渡して口を開く。
「さて、彼のパーソナルスキルについては、運営としては何も言う事はできない。問題は【解体】と【落とし物】の相乗効果だ」
「もし彼がPKに悪堕ちしたら、酷い事になりますよ」
「普通に狩りしても問題だろ。モンスタードロップが根刮ぎにされるぞ」
「あの……既にされてるようです」
中嶌と呼ばれた若いスタッフの声に、一同が振り返る。
「どういう事だ?」
「これ……同じ日の北フィールドの狩猟記録なんですけど……」
「はぁ!?」
「何だこれは!」
「あり得ねぇ……」
「ドロップ品、根刮ぎじゃねぇか……」
全員が呆然とする中で、木檜と呼ばれた男性が独り満足げに頷いていた。
「【落とし物】の効果がここまでとは思わなかったな」
「どうします、木檜さん。修正を入れますか?」
「大楽、運営が度々修正を入れてたらユーザーからの信頼を失うと、以前から言ってるだろう?」
「し、しかし、これはいくら何でも……」
「俺の判断としては、このままでいいと思う。彼は我々の予想以上の『トリックスター』のようだ。きっと面白い事をやらかしてくれるぞ」
「じゃぁ、このまま放置ですか」
「今のところはな。何かあったら、またその時考えよう。この少年を重要監視対象に指定しておけよ。俺は一応上の方に報告してくる」
・・・・・・・・
「そうか……『トリックスター』がね……」
「ええ、我々の予想を上回る逸材のようです」
「予想より大分早いが……大丈夫かね」
「そのために充分な時間をかけて舞台を組んでありますから。尤も、そういう予測を覆すのが『トリックスター』なんでしょうが……」
「では、そのプレイヤーの追跡はよろしく頼むよ。それと……そのプレイヤーとの接触はどうするね?」
「現状では考えていません。『スキルコレクター』について説明する必要が生じた時で良いかと思います」
「わかった。その件についても一任する。くれぐれもよろしく」
「はい」
本日はあと二話ほど更新の予定です。