第三十四章 トンの町防衛戦 7.ナントの道具屋(その2)
「それじゃあ、シュウイ君、今度は僕のお願いを聞いてもらえるかな?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「うん。オークキングのドロップ品って、何だったんだい?」
ナントの求めに応じてシュウイが取り出したドロップ品は……
「オークメイジの爪と大腿骨。オークキングの頭骨、牙、肝臓、心臓、魔石、それに……サナダムシですね」
「サナダムシ!?」
「また、出たんだ……サナダムシ」
「出ちゃいましたね……」
「いやちょっと待って!? また……って、前にも出たの、コレ?」
「前回はプレーリーウルフでしたよね?」
「今回はオークキングだからねぇ……他のドロップ品も凄いし……どうする? 魔石は売らないんだろう?」
「一応鑑定させて下さい。あ、それから、魔石は売らずに取っておきます」
【素材鑑定W】を使ってみたけど……駄目だ……。
「ナントさん……僕のレベルじゃまるで鑑定できません……」
「そうだろうね……前回ほどの奇天烈素材じゃない――サナダムシは除く――けど、何れ劣らずレベルの高いものばかりだからねぇ……」
肩を落とす僕に、ベルさんが声をかけた。
「ねぇ、シュウ君、ひょっとして朝に言ってた相談したい事って……」
「あ、そうです。例によって訳が判らないんですけど、【調薬】と【錬金術】の特殊なやつを取得して……邪道って付いてるんですけど」
「邪道!?」
「また……らしいというか何というか……」
「……シュウ、ひょっとして例のアレもそれ絡みで手に入れたのか?」
「はい。でも、普通の【調薬】でも作れましたけど」
「つまり……供給という点では不安は無い訳だね?」
「そうですね。僕みたいな駆け出しにも作れたぐらいですから」
「いや……邪道って付いてる時点で、普通たぁ違うんじゃねぇか?」
「まぁ、それは一旦措いといて……原料は何なんだい?」
エレミヤさんの質問に、僕はナントさんの方に視線を向けた。駆け出しの僕よりナントさんに答えてもらった方が良いよね?
「ここだけの話にしておいて欲しいんだが……ワイルドボアの血液だよ」
「血液かぁ……」
「ドロップ品としちゃあ、そこそこレアなやつだな」
「あぁ。でも、NPCなら普通に抜き取れるからね。多分、対応するスキルさえ取れれば、僕たちプレイヤーにも採取できるんじゃないかと思うんだが」
「そうか……で、今の時点で幾つある?」
「製品は二本。ただ、状況次第では増産は可能だろう?」
今度はナントさんの方が僕に確認を求めてきたので、頷いて肯定する。
「状況次第というのは……?」
「今の時点で濃厚血小板を公表するのが良いかどうか判らないからね。使用法も確立されていないし」
「血小板?」
ナントさん以外の五人が不思議そうな顔をしたので、説明をナントさんにお願いする。俄勉強の僕よりは詳しいだろう。
「アレルギーか……」
「治癒魔法が効かないのも道理よね……」
「現状ではあくまでも仮説だからね? 間違えないでくれよ」
「あぁ。しかし、確度の高い仮説だろう」
「まぁ、あれだ。一度は使ってみる必要があるんじゃねぇか? 掲示板とかに流す前によ」
「けど……相手が死刑宣告者なら、二本じゃ足り無くない?」
「最低でも人数分はいるだろうな」
「いや……その前に、使用法が判っていないんだからね?」
ナントの指摘にむぅと考え込む「黙示録」一同。ここでシュウイが素朴な、しかし重要な質問を発する。
「あの……僕は死刑宣告者がどんな魔物か知らないんですけど……どういう風に紫斑毒を撃ってくるんですか?」
「あぁ……シュウイ少年は知らないか。毒の霧を吹くんだよ」
「服や防具を侵蝕するし、皮膚に付着すると爛れたようになって、そこから毒が回るのよ」
「あ、じゃあ、二種類の毒の混合物なんですね。侵蝕する成分と、紫斑毒と」
「……言われてみればそうよね……」
「今までは毒の正体が判らなかったからねぇ……単一の毒だと思ってたよ」
「だったら、毒が着いた場所をすぐに洗って、傷口に血小板を塗るのは駄目ですか?」
「水で洗おうとするとね、物凄く発熱するのよ」
「へぇ……濃硫酸みたいな感じなんですね。だったら、水の量を物凄く増やしたら良いんじゃないですか? あるいは勢い良く洗い流すか、中和するか」
「中和かぁ……」
「どっちみち溶解液を除去しないと、血小板も溶かされちゃうんじゃ?」
「あり得るなぁ……あの運営だし」
「あぁ、それとシュウイ少年は誤解しているかもしれないが、紫斑毒の効果はその場で出る訳じゃない」
「あ、そうなんですか?」
「溶解液そのものを防ぐ方法は考えられているんだよ。極端な例だと布団を被って闘ったりね」
わぁ……。
「……見かけはともかく、効果はありそうですね」
「あぁ。けど、どういう訳か結局は毒が回って、やがて死ぬ訳だ」
「多分、毒に中るのは回避できない仕様なんだろうな。解毒できるかどうかが鍵なんだろう」
「だから、死ぬ前にこの血小板を与えれば、助かる可能性は高いのよ」
「あ……だったら現場で投与するんじゃなくて……」
「そうだね。後方の治療所で与える事になるね」
「……今気が付いたんですけど、プレイヤーなら死に戻ればすぐに復帰できますよね?」
「そこがこの毒のいやらしいところでね」
「デスペナルティが酷い上に三日間と長いのよ。ログイン時間で三日間だから、すぐにログアウトして三日後にログインしても駄目ね」
うわぁ……。
「つまり……死に戻った後も、病人の状態で三日間過ごさなきゃ駄目と……」
プレイヤー殺しだね……。
「しかし……一級調薬師が鑑定しても使用法が表示されないというのは解せんな」
「免疫反応云々ってありましたから、飲むんじゃないと思いますよ? ここの運営が皆さんの言うとおり悪辣なら、飲ませたら投与法が違うとか表示されるんじゃないですか?」
「……凄くありそうよね、それ」
「点滴か注射の用意をしておく必要があるだろうな……ナント?」
「注射器はともかく、点滴の場合はホースがねぇ……」
「あぁ……合成樹脂なんかないからな……」
「注射針はあんのか?」
「鍛冶師に頼むしかないだろうねぇ……」
「あの……毒蛇の毒牙は使えませんか?」
思いがけないシュウイの指摘に驚く一同であったが……
「成る程……いや、使えるかもしれない」
「だったら、そっちの入手が先か」
「けど……そんなドロップあるの?」
「いや、これはNPCに依頼した方が早いだろうね」
「バランド師匠なら何か知ってるかもしれませんから、明日にでも聞いてみます」
それからはしばらく談笑が続き、明日の午後にオークの魔法を見せる事を約束して、シュウイは宿に戻った。




