第三十四章 トンの町防衛戦 5.冒険者側陣地
トンの町の北西部に敷かれた陣地では、ようやく戦闘が終わって冒険者たちが休息を取れるようになった。最終的に狩ったオークの数は三百を余裕で超えていた。積み上げられた屍体と装備はギルドの手で処理され、報酬は参加した冒険者に均等に分けられる予定である――あの殲滅戦の中で誰が何匹斃したかなんて判るものか。ちなみに、ケインたちプレイヤーはこの分け前には与れない。プレイヤーが留めを刺したオークはドロップ品をアイテムバッグ内に残して消えていくので、間違える事は無いからだ。ギルドカードを見れば留めを刺した数は判る――これはNPCの冒険者も同じ――のだが、留め以前に手傷を負わせた数は判らないし、ある意味一番の殊勲者であるトリファの煙を担当した者の評価ができない。なので、NPCたちの報酬は均等に頭割りという事になっていた。
「……こっちは何とか終わったが……シュウイ君の方は大丈夫なんだろうね」
「判らん……正直、気にしている余裕は無かったな……」
「あの坊主のこった、きっとケロっとしてらぁ」
ダニエルの言葉を裏書きするように、草原の外れにシュウイが姿を現す。
「お~い」
「シュウイ君!」
「シュウ! はっはぁ、無事だったか!」
「はい、皆さんも」
「あぁ……想定以上の数が来て大変だったけどね」
「……どれくらい来たんですか?」
「ざっと三百は超えてたね……」
「うわぁ……」
「それより、そっちはどうだったの?」
「数も少なかったし、申し訳無いほど簡単でしたよ。あ、一応キングも斃しました」
「キングって……オークキング!?」
「はい……あ、済みません。ギルドマスターが呼んでるみたいなので、後で」
「あ、あぁ、話は後で聞こう」
・・・・・・・・
シュウイはギルドマスターの傍へ駆け寄って行く。
「よぉ、御苦労さん。そっちも片付いたみてぇだな」
「はい、僕たちの方は数も少なくて楽でしたね」
「済まねぇが、一応ギルドカードを見せちゃもらえねぇか。規則なんでな」
「あ……わざわざ読み取り機を持って来たんですか。はい、構いませんよ」
「済まんな……って、お前、オークキングにオークメイジを狩ったのかよ」
「バランド師匠から毒を借りたので簡単でしたよ?」
「いや……毒を使ったって、そう簡単な筈は無ぇんだが……まぁ、良いか」
ギルドマスター、なにか微妙な顔をしてるな。どうしたんだろう?
「まぁ、それはそうと、向こうから来たにしちゃ、随分早く到着したじゃねぇか」
「それは、一所懸命に走りましたから」
うん。【疾駆】スキルを使って全力で走ったよ。あのスキル、レベル1では四つん這いになって走るしかできないんだね……魔獣用のスキルだからかな。……うん、不人気スキルな理由が判ったよ。頑張ってレベル3まで上げたから、今は二本脚でも使えるけど……四本脚に較べるとやっぱり速度が落ちるんだよね。
「……何か考え込んでるみてぇだが……?」
「あぁ、済みません。この後の事を考えてたんです」
「おぉ、その事だがな、明日にでも儂んとこへ来てくれんか? なに、悪い話じゃねぇよ」
何だろう? でもまぁ、呼ばれているんなら行くしかないよね。
「はい、解りました」
・・・・・・・・
「ギルドマスターの用って何だったの、シュウ君」
「あ、ギルドカードの確認でした。あと、明日ギルドに出頭するようにと」
「まぁ……オークキングを斃したなんて事になりゃあなぁ」
「あぁ、ここには他のプレイヤーがいないから良いようなものの……」
「もしいたらクレーム続出ね」
「え? なぜです?」
「そりゃ、お前、オークキングを一人で狩っちまったからよ」
「……拙かったですか?」
「気にするこたぁねぇや。シュウだって一人でやったんじゃねぇだろ? ホブゴブリンの協力が得られなかったら無理だったんだろうがよ」
「……そうですね。闘いそのものは毒が効いてたんで、斃すのは大した事はありませんでしたけど、僕一人だと逃げられた公算が大きいですね」
(「……大した事無かったんだ」)
(「いくら毒が効いてても、そんな簡単に斃せるもんなのか?」)
(「彼のスキルは謎だからねぇ……」)
後ろの方でひそひそと話す声が聞こえるが、ダニエルはそんな話し声を無視してシュウイとの話を続ける。
「だろ? だったらそれは正当な報酬ってやつだ。大体、ホブゴブリンたちゃあ何も文句は言わなかったんだろうが?」
「彼らは自分たちの事をホビンって呼んでるみたいですよ? ゴブリンの同族扱いしたら怒られましたから。それはともかく、確かに何も文句は言われませんでしたね。僕らのドロップシステムを知らないだけかもしれませんけど」
「んな事ぁ気にすんな。何か文句を言うやつがいたら、俺たちに言ってこい。話をつけてやるからよ、なぁ、みんな?」
「うん? あ、あぁ、そうだな」
「そうよ。文句を言う連中がいたら、あたしのところへ連れて来なさい」
「何、じっくりと話をすれば、きっと判ってもらえるよ」
「遠慮する事は無いからね?」
「ありがとうございます」
親切な人たちだなぁ。
「そりゃそうと、そろそろ飯にしねぇか?」
「そう言えば……あの騒ぎでお昼を食べ損ねていました」
「確かに、そろそろ空腹が厳しくなってきたな」
「状態異常の表示が出る前に食事にするか」