第三十三章 篠ノ目学園高校(土曜日) 2.放課後
昼休みを終えて放課後……って、あれから一時間しか経ってないのに……
「……なのに、よく大盛りカレーなんか入るよな、匠」
「奢りは別腹だからな。よく言うだろ?」
初耳だぞ、そんな格言。
「けど……本当、よく入るよね」
「ここの大盛りって、えげつないくらいの量なのにね」
「育ち盛りだからな」
「育ち盛り……って匠、また伸びたのか?」
「ん? あ、あぁ……ちょっとだけな」
……僕の身長はちっとも伸びないのに……神様、不公平です。
「ほらほら蒐君、沈まないの」
「頭と身体の成長は別物だから~」
「……何か、俺がディスられてる気がするんだが……」
……だとしても、慰めになってないよ……。
微妙な空気になりかけた男子陣に活を入れるように、茜が話を切り出す。
「さっきは匠君たちの話だったから、今度はあたしたちの話」
「え? 茜の方でも何か判ったのか?」
「うん。ささ、カナちゃん、どうぞ」
「……珍しく茜ちゃんが説明するのかと思ったら、結局私なの?」
「うん。カナちゃんの方が説明が上手だから」
軽い溜息を一つ吐いて、要ちゃんが説明を始めた。まぁ、いつもの事だよね。
「私たち『ワイルドフラワー』はスキルの重ね掛けの効果について検証を始めたんだけど、まだ昨日の今日だしね、目立った成果は出せてないわ。ただ、それでも蒐君の仮説が正しいんじゃないかって感触は得られてる。それを今から話す訳なんだけどね」
要ちゃんは一旦言葉を切って僕たちを見回した。
「最初に問題になったのは、似たような効果のスキル複数を持っているメンバーが少ないって事ね。当たり前だけど、わざわざ同じようなスキルを揃えようなんて物好きは少ないわ。偶然手に入ったとしても、スキルスロットを圧迫するのは事実だしね」
ローズヒップティーを一口飲んで話を続ける。
「だから検証に参加できたのは、私の他にもう一人だけ。私は【気配察知】と【魔力察知】、もう一人は【隠蔽】と【偽装】を重ね掛けしてみた」
「へぇ……【魔力察知】と【偽装】はどんなスキルなの?」
スキルコレクターとしては知っておきたいよね?
「どちらもレアスキルじゃないわよ? 【魔力察知】は文字どおり魔力を察知するスキルよ。【偽装】は……確か……自分だけでなく第三者や物品にまで効果がある反面で、動物に化ける事はできなかったと思う」
ふぅん……【擬態】とは補い合うようなスキルなんだ。
「で? 重ね掛けの効果はあったのか?」
「まだ始めたばかりだし、被験者も私たち二人しかいないから絶対とは言えないけど、感触としてはイエスね。もう少し追加事例が欲しいところなんだけど……匠君たちの中に協力できそうな人材はいない?」
「あ~……俺たちは脳筋族だからなぁ……スキル自体そこまで持ってないんだ。俺も持ってるのは物理の戦闘スキルがほとんどで……あとは牽制用に【火魔法】を取ってる程度だなぁ……」
へぇ……匠ってば、火魔法を牽制に使ってるんだ……
「【火魔法】で牽制って、どうやるのさ? 詠唱に時間がかからない?」
「ボール系ならそんなに時間はかからないし、短時間なら溜めておく事もできるしな」
「溜める?」
「あぁ。予めファイアーボールを出現させて、そのままの状態で止めておくんだ。で、隙が見えたら残りの詠唱――的の指定だな――を続けたら飛んで行くってわけだ」
へぇ……それなら牽制には使えそうだけど……
「ボールは相手にも見えてるわけだよね?」
「あぁ。だからどっちかって言うとハッタリの面が大きいかもな」
ふぅんと納得していると、今度は茜ちゃんから質問が出た。
「ねぇねぇ匠君、例えば【片手剣】と【双剣】のスキルを重ね掛けとかはできないの?」
「それ以前に、その二つを同時に取る事ができないな。転職の時点で取れるスキルが限られるから。あと、その二つはスキルじゃなくてアーツだぞ。で、偶然その二つを取得したやつの話じゃ――β時代の掲示板で読んだんだけど――スキルの発動が混乱するみたいなんだわ。同じスラッシュってスキルでも、【片手剣】と【双剣】じゃタイミングも違うしな。ま、終わりの方では慣れたみたいだけど」
「あぁ……そうか。斬撃のスキルって、基本は瞬間的な発動だから、抑重ね掛けなんて想定していないよね」
「そういう事だな」
「う~ん……だったらさ、剣術の体捌きに関するスキルってあるだろ? それに……例えばアクロバットとか、平均台みたいな平衡感覚に関するスキルとかって、重ね掛けできないかな?」
「アクロバット……って、そんなスキルあるのかよ?」
「知らないよ? てか、抑僕が持ってたらレアスキルじゃん。入手しにくいだろ?」
「いや……問題はそっちじゃなくてな……」
「……でも、ありそうだよね、アクロバット……」
「アクロバットはともかく、平衡感覚系のスキルならあってもおかしくないわね……」
「まぁ……一応メンバーに聞いてみるわ。その場合だけどな、この件についてはまだ掲示板に流さない、オフレコって事でいいんだな?」
「そうね。結構重要な内容かもしれないし、公表するかどうか、するとしてもそのタイミングについては、もう少し考えたいわね」