第三章 トンの町 4.攻略パーティ「黙示録(アポカリプス)」(その1)
攻略組のパーティと知り合います。
ギルドで手続きを済ませてもまだ昼過ぎ。一日の稼ぎとしては充分だけど、まだお日様が高いうちから怠けるのも気が引けるし、昼食を食べてからもう一働きしよう。そう思って食堂兼酒場に来てみたんだけど……なぜかお客さんたちが皆、一斉に顔を背けた。別に威嚇している訳じゃないんだけどな……親愛の情を込めて挨拶ぐらいしたいんだけど……全員固まったように動かない。……追加収入は無しか……なんて考えてないよ?
滞りなく――給仕の女の子はなぜか涙目で膝が震えてたけど――食事を済ませた僕は、東のフィールドに来ている。城壁からそう離れていない場所にワンランク上の薬草が生えていると聞いて採りに来たんだ。今の僕なら、強いモンスターに出くわしても……走って逃げるくらいはできると思うんだ。
薬草を見つけて丁寧に採集していると、どこかで戦闘中らしき物音がしている。警戒しながら様子を見ると……冒険者のパーティがモンスターを狩っていた。大きな熊さんだ……ギャンビットグリズリーってやつかな? かなり強いモンスターの筈だけど、危なげなく闘ってるな。
少し興味を覚えて、戦いの様子がよく見える位置に移動する。壁役がタワーシールドと火魔法を上手く使ってヘイトを稼ぎ、その隙を衝いて大剣使いが一気に詰め寄って叩き斬る……上手いな、あの剣士の人。スキルを上手に使ってるんだろうなぁ。僕もああいうのに憧れてたんだけど……今のスキル構成じゃなぁ。……あ、熊さんふらふらだ。魔法使いが……あれは闇魔法かな? 熊さんを束縛しているところに……あ、大剣使いの人が首を斬り落とした……終わりだな。
パーティの人たちが勝利を喜んでいるのを眺めていると、ポーンという電子音が聞こえてきた。何だろ? ……え? ……えぇ!? ……どういう事??
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攻略パーティ「黙示録」の面々は、無事に強モンスターを討伐できた事で上機嫌であった。ドロップ品も――レアドロップの胆石こそ無いにせよ――上々の品質であり、収入の点でも大いに潤った。何よりギャンビットグリズリーはBランク推奨のモンスターであり、それを斃したという実績は、現在Cランクの自分たちをランクアップさせるのに大いに寄与してくれる筈だ。
だから、その少年が怖ず怖ずと声をかけてきた時にも、穏やかな心で好意的に対応する事ができた――パーティの誰一人として気付かぬうちに接近された事が気にならないくらいに。
「あ、あのぅ……」
「うん? どうしたね? 少年」
「多分……これって皆さんのものだと思うんですけど……」
しかし、彼らのゆとりも少年が差し出したものを見るまでだった――特大サイズのギャンビットグリズリーの胆石を。
「ちょっ! 何よ!? それ!」
「はぁぁっ!? 胆石か!?」
「おまっ! どうやってそれを!?」
食い付かんばかりの剣幕に怯んだ様子を見せる少年を見て、ようやく自分を省みる余裕を取り戻した「黙示録」のリーダー、ケイン。
「落ち着け! その子が怯えるだろう!」
リーダーの一喝で我に返る「黙示録」の面々。彼らの頭が冷えたのを確認して、ケインは少年に問いかける。
「仲間たちが済まなかった。自分は『黙示録』のリーダーを務めるケインという。よかったら君の名前と、この胆石の事を聞きたいんだが?」
理性的な相手のようでほっとしたシュウイは質問に答える。
「あ、僕は駆け出しの冒険者で、シュウイといいます。これは多分そちらのパーティのドロップ品が、間違って僕のところへ来たんだと思います」
「はぁっっ!? ドロップ品が間違ったところへ来るなんてある訳……」
「落ち着け! ダニエル! ここは私に任せろっ!」
喚きだしたパーティメンバーを恫喝……いや一喝したケインが、再びシュウイに向き直る。
「重ね重ね済まない。だが、自分も同じ事を聞きたい。ドロップ品が間違ったところへ落ちるなんて事は無い筈だが?」
「あの……ちょっと変わったスキルを持ってるんです。【落とし物】っていって、落とし物を拾いやすくなるスキルなんです。だから多分、そちらに落ちる筈のドロップ品を拾ったんだと……」
シュウイの告白に呆然とする一同。そんな事があり得るのか? いや、実際に起きたんだからあり得るんだろうが、自分たちはそのドロップ品に対して権利を主張できるのか? 一応全員がドロップを得ているのに。
硬直が解けた一同が急遽協議するも、一旦ドロップしたものを取り上げるのは筋が通らないだろうという結論に達する。
「でも、何もしてない僕が貰うのはもっとおかしいですよ?」
それもそうかと再び困惑する一同。いっそ、運営に裁可を丸投げしてやろうかと思い始めたところで、大剣使いのヨハネが疑義を糺す――いや、爆弾を放り込む。
「……一つ聞きたいんだけど、君が傍にいればドロップ品が増えるのかい?」
「そちらのドロップが減っていないんなら、そうなのかもしれません」
シュウイの回答を聞いてやにわに色めき立つ一同。上等のドロップ品が増えるだと? そんな美味しい話を放ってはおけない。
「よし。シュウイ君と言ったね。しばらく自分たちに付き合ってくれないだろうか。君には極力危険が及ばないようにするので、どうかお願いする」
「あ、はい。僕は構いません」