第三十章 篠ノ目学園高校(金曜日) 2.放課後
今日は茜ちゃんと要ちゃんが僕に奢ってくれる事になった。うん、こんな事でも気分は良くなるもんだね。
「で、どこ行くんだ? 蒐」
「こないだ駅前に本格フレンチの店がオープンしたじゃん?」
「……蒐君?」
僕に向かってにっこりと聖女のように微笑む要ちゃん。
「……『幕戸』でいいです」
うん、空気を読むのは大事だよ? ……長生きしたいんなら。
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「ん~っ、他人の奢りで食べるのって至高の美味だよね」
茜ちゃんと要ちゃんに奢ってもらったのはデラックスコーヒーパフェ。パスタのセットにしようかとも思ったんだけど、二人ともパフェにするっていうから、僕もそっちに倣った。匠はそこまで甘党じゃないからコーヒーとクラブサンドイッチのセットにしてる。
「……しかし、蒐のスキルは本当に反則っぽいよな」
「けど、どんなスキルが取れるのか判らないから、成長の計画なんか立てられないよ? 完全に行き当たりばったり」
「それが問題よね……」
「いや、俺が言ってるのは【スキルコレクター】じゃなくて【虫の知らせ】の方。察知能力が高いのは攻略組としても羨ましいからな」
「あ~、それは同感」
「蒐も早いとここっちへ来いよ」
「う~ん……まだ攻撃力に自信が無いからなぁ……」
本当は着々と揃いつつあるんだけどね。オークメイジから【火魔法】も貰ったし。
「けど、【虫の知らせ】ってそんなに威力が高いの? 【気配察知】ならよく聞くけど」
「何ていうのかな……【気配察知】は実際にそこにいる生物に対する察知スキルなんだけど……【虫の知らせ】は起こり得る事態に対する予知に近いというか……」
「うわぁ……それってやっぱり反則級」
「うん、否定はしにくいかな。この二つに【嗅覚強化】と【イカサマ破り】を重ね掛けしておくと、大抵の偽装なんかは見破る事ができるし……」
「マジかよ……」
「ねぇねぇ、蒐君、今スキルのレベル幾つなの?」
「こら、茜ちゃん、他人のスキル構成を訊くのはマナー違反よ」
「ん~、だって、カナちゃんは知りたくないの?」
「それは……」
まぁ、それくらいなら教えてもいいかな。割とすぐに上がるだろうし。
「いいよ。【虫の知らせ】がレベル7、【嗅覚強化】と【気配察知】がレベル6、【イカサマ破り】がレベル3……だったかな」
そう言ったら、なぜか皆がこっちを向いて黙り込んだ。
「どうしたのさ?」
「……【気配察知】がレベル6?」
「【虫の知らせ】と【嗅覚強化】については断定しづらいけど……【気配察知】のレベルは明らかに異常よね……」
「何が?」
「蒐、俺たちのチームの斥候でも【気配察知】はレベル4……もうすぐレベル5ってところなんだ。後発のお前がレベル6ってのは、明らかにおかしいからな?」
「そうなの?」
結局、僕のカミングアウトに対して、三人がひそひそと話し出した。……僕、仲間外れなの?
「……いや、仲間外れって訳じゃないけどな」
「やっぱり【スキルコレクター】の効果?」
「どうかしら……蒐君、普段は察知系スキルをどう使ってるの?」
「え? 普通だよ? フィールドに出たらすぐに重ね掛け」
「……常時発動が鍵?」
「いや……それだけなら他にも該当するプレイヤーはいるだろう」
「じゃあ、やっぱり重ね掛け?」
僕、何か変な事したのかな?
「重ね掛けって、変なの?」
「いや、そういう事じゃないけどな」
「常時発動の重ね掛けっていうのは珍しいかもしれないわね」
「そうなの?」
「ええ、スキルを発動するのにもMPを使うから」
「いざって時にMP切れで魔法が使えないと拙いからな、常時発動の重ね掛けっていうのはあまりやらないな」
「あ……そうか。蒐君、MPを食い潰す魔法を持ってないから」
「心置きなく重ね掛けできる訳だ」
「やっぱり重ね掛けが原因?」
「ありそうだな……抑、同じような効果のスキルを複数取る事が無いし、誰も気付かなかったんだろうな」
正解である。運営側は公表していないが、SROでは類似したスキルを重ね掛けするとレベルアップし易くなる仕様になっている。シュウイは察知系のスキルを四つ、隠蔽系のスキルを三つ、常時重ね掛けしている上に、【器用貧乏】が地道に後押ししているので、レベルの上昇ペースがヤバい事になっていた。
「少なくとも、検討すべき要素ではあるわね」
「蒐、この事、掲示板には書いてないよな?」
「うん、してないよ」
「匠君、掲示板に上げるつもり?」
「あ~……どうすっかな~……」
「未検証の情報だしねぇ……」
匠と茜ちゃんが考え込んでいると、要ちゃんが提案してきた。
「茜ちゃん、この件は『ワイルドフラワー』で検証してみない?」
「『ワイルドフラワー』で?」
「えぇ、私たちならMPには割と余裕があるし……蒐君がよければだけど」
僕は別に構わない……っていうか、誰でもやってる事だと思ってたよ。
「僕は気にしないけど、掲示板も任せていい?」
「そうね。結果次第だけど、私たちの方でやっておくわ」
双方満足のいく取り決めが終わってからは、雑談の続きになった。あ、従魔の普及状況について確かめたんだけど、まだまだ従魔は少ないらしい。シルの事は――幻獣だっていう事を抜きにしても――まだ内緒にしておいた方が良いみたいだね。