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第二十九章 運営管理室 2.トリックスター

 運営管理室のスタッフたちは、今や祈るような気持ちでモニターを見つめていた。そのモニターに映っているのは、クロスボウと投石紐(スリング)を駆使して危なげ無くオークを狩るシュウイの姿であった。



「クロスボウはまだしも……投石紐(スリング)ってあんなに威力があったか?」

「『スキルコレクター』の効果でステータスの初期値が軒並み向上してますからね」

「あぁ……通常の五割増しなんだったか……」

「攻撃力と器用度が五割増しなら、あの威力も納得できるな……」



 弓を含む投擲(とうてき)武器の命中率は器用度に左右される。正確に急所を射抜(いぬ)く事ができれば、一撃で致命傷を与える事も難しくはない。まして、その威力が五割増になっているのであれば……。



「しかし……【ウェイトコントロール】にこんな使い方があるなんてな……」

「ギャンビットグリズリーですら一撃でしたからねぇ……」


 場面はシュウイが杖の一突きでオークを仕留めたところであった。



「運動エネルギーは質量と速度に比例するから、体重が二倍になれば、確かに打撃力も二倍になる。とはいえ、それを実行するのは簡単じゃないと思うんだが……」

「だが、現に彼は成功してるぞ?」

「パーソナルスキルが高いんだろうな。でないと、こうもあのスキルを使いこなせんだろう」



 スタッフたちの会話に木檜(こぐれ)が別視点から参加する。



「しかし……彼はオークが敵性キャラかどうか判別するのに【聴耳(ききみみ)()(きん)】を使っているようだな……」

「確かに面白い使い方ですが……それが何か?」

「いや……つまり彼は、敵対する立場の相手とも交渉が可能かどうかを考えているわけだろう? そういう考え方をするのなら、(トリックスター)の選択肢は幅広いものになるんじゃないかと思ってな」



 木檜(こぐれ)の指摘にうんざりした表情を隠さないスタッフたち。



「ホブゴブリンたちと出会っても、彼が交渉から入るのは確実ですね……」

「おい……だとすると……コボルトたちとも交渉を持つ可能性があるんじゃないか?」



 スタッフの指摘に緊張する一同――余計な事を言い出しやがってという理不尽な視線を向ける者もいる。しかし、セカンドチーフの(たい)()が皆の緊張を解く。



「コボルトたちはナンの南に移動している。今更彼らのプログラムをいじくるのは現実的ではないから、トリックスターが関わってきそうなクエストやアイテムを洗い直しているところだ」



 (たい)()の発言に何となく安堵する一同。そこへ、モニターを監視していた中嶌(なかじま)の声が響く。



「トリックスターの彼がホブゴブリンたちと接触しました」



・・・・・・・・



「決まったな」



 モニターを見続けていたスタッフたちの間から溜息と共に怨嗟の声が上がる。



「序盤から拠点防衛クエストの開始。しかもそれにホブゴブリンが参加する……完全にこちらの予定を崩されました」

「まさか、トリックスターの効果がここまでとはな……」



 珍しく考え込んだ様子の木檜(こぐれ)の後ろから声をかけた者がいた。



「これだけじゃ済まないような気がしますね」



 余計な事を言うんじゃない、フラグが立ったらどうすんだ、とばかりに(とく)()を睨み付けるスタッフ一同。しかし、運命は彼を予言者の立場に置くのであった。



・・・・・・・・



「おいっ! 一体どういう事だ!?」

「あの【火魔法】はどっから来た!?」



 運営管理室に怒号と罵声が飛び交う。モニターが映しているのは、シュウイが宿の部屋で自分のスキルを鑑定した場面である。モニターのシュウイはログをチェックしているが、管理室でも同じ事をやっていた中嶌(なかじま)が声を上げる。



「判りました! あのオークメイジです。あいつを仕留めた時に強奪した事になっています!」

「魔法持ちのモンスターから強奪したのか……」

「……いや、ちょっと待て。トンナン街道の盗賊にも魔法持ちはいただろう? あの時は強奪はなかったぞ?」



 スタッフの言葉に過去のログをチェックする中嶌。



「……あぁ、あの時は魔法スキルの代わりにレアスキルを強奪していますね。今回のオークメイジはレアスキルを持っていなかったようです」

「まぁ……オークにとっては魔法自体がレアスキル扱いなんだろうな」

「どうやらトリックスターの彼も気が付いたようだな」



 モニターを見ていたスタッフの一人が何気なく漏らした言葉に、別のスタッフが反応する――いくらか(ひる)んだ様子で。



「……って事は……(トリックスター)は明後日のオーク討伐で、メイジを優先的に狩るんじゃないか?」



 そのスタッフの問いに答えようとする者はいなかった。

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