第5話 人間?人喰?
目を開けると、そこは知らない天井だった・・・・・。それにしてもさっきのは何だったんだろう?ただの夢とはおもえないほどリアルだった。
「護君、起きたかね!」
「え! あ、はい」
「私は江藤と言う物だ。君の手術をさせてもらった」
「あ、ありがとうございます!」
近づいてきたのは、高身長で白髪の白衣を纏った医者だった。貼り付けたような笑顔をしているのが特徴的だ。
「自分の名前や特徴を言ってみてくれるかね」
「桐生護17歳AB形で趣味は映画観賞です」
「うん、大丈夫そうだな。事故が起きた時のことを覚えているかね?」
「はい、断片的にですが。何で助かったのでしょう?」
事故が起きた時は、確かに僕は致命傷を負っていたはずだ。それなのになぜ生きているのだろう?
「たまたま近くを散歩中の老人が気付いたらしくてね、事故発生からすぐ駆け付けたおかげで一命を取り留めたんだよ。ちなみにその日からもう6日経っている。親御さんも、もうすぐこっちに来るだろう」
「そういえばここは何処ですか?」
「ここはK大学附属病院だよ。他に何か質問は?」
「僕と一緒に女性がいたはずなんですけど、知りませんか?」
「ああ、確か瓦礫から人喰の死体が出てきたらしいよ。知り合いだったのかい?」
「――はい、喰われかけました」
「不自然なおなかの傷はその時のものなのか」
「は、たぶんそ”ガチャ”」
「護~~~!護、護、護、護!!もう、本当に心配したんだから!」
義母が病室の扉を勢い良く開け、僕を抱きしめた。顔は涙でぬれていた。きっとかなり心配してくれたのだろう。
(愛されてるんだな。生きててよかった)
「体に痛いところは無い?他にも感覚が無くなったり・・・他にも記憶が無くなったり」
「大丈夫だよお母さん、どこも悪くなさそう」
本音を言うと、まだ少しお腹が痛いが、少しでも安心させるために黙っておこう。
「そう、本当に良かった。死んじゃうんじゃないかって思って。もう、あんまり母親を泣かせないでよ」
その後、ある程度病院生活をして退院することになった。お腹には傷がついた後のようなものが分かるが、かなり綺麗に治っている。他にも眼鏡を掛けていないのに、遠くまで見えるようになっていた。それを見てふと夢の事を思い出した。いや、さすがにそれは無いだろう。人間が人喰になるなんて・・・・ないよね?
帰って早速ご飯を食べた。病院では薄味の食事が基本だったので、とても美味しく感じる。ちょっとしたおかずすらも、特別な料理に思えるほどだ。がっついて食べていると、突然、便意が!急いでトイレへと駆け込む。
(うわ!何だこれは!)
出てきた便と思われるものは、まったく消化された跡がなかった。どういうことだ?まるで人喰じゃないか!
怖くなった僕は、自室へ飛び込み検証してみる。まずはボールペンで腕を突いてみる。
・・・・・痛くない。
(違う!嘘だ!)
今度は思い切り突き刺す!”ボキッ”折れたのはボールペンの方だった。手にはほんの少し傷がついた程度にしかなっていない。その傷も瞬く間に消えていった。
(夢のことは本当なのか!)
他にも腕立て伏せや、腹筋などをしても全く息が上がらない。さらに軽くジャンプをするだけで天井に手が届くのだ!僕の部屋の天井は高めで3メートル半あるので、かなり運動神経が上がっている事が分かる。握力も上がっており、初リンゴつぶしをした。床に汁が飛んだので今では少し後悔しているが、やっぱり男の憧れだからやらない手はなかっただろう。
(クソッ!ほんとに人喰になったのか!)
誰かに相談するか迷うが、言ったらどうなんだろう?
《脳内シミュレート》
義母の場合
僕 お母さん、実は手術した後から体の調子がおかしいいんだけど・・・・。
母 それは困ったわね?どうおかしいの?
僕 ちょっと目がよくなったり、力が強くなったり、食べ物を消化できなくなったり・・・・。
母 まあ!それって人喰の特徴じゃない!まさか拾った子供が人喰だっただなんて!
僕 いや、まだそうと『ピポパポ』
母 助けてーー!家に人喰がいます!!
僕 ちょっとお母さん!やめて!
母 やだ!食べられる!!早くしてください!来ないで~~~!
昇の場合
僕 いやー、実はさ、事故の後から体が変なんだよね
昇 どう変なんだ?
僕 ちょっと目がよくなったり、力が強くなったり、食べ物を消化できなくなったり・・・・。
昇 なるほど、お前人喰だったんだな!
僕 いや、そうじゃ!
昇 くそー!親友だと思ってたのに俺はただの捕食対象だったんだな!
僕 そんなわけ
昇 元親友の好で通報はしないでやる!だからもう顔見せんな!そんな奴だと思わなかったぜ!
最悪なパターンばかりが浮かんでくる。こんなに酷くは無いかもしれないが、相談するのは得策ではない気がする。力を見せたら高確率で距離を置かれる気がする・・・・。よし、黙っておこう!
そうなると、自分で解決しなければならない。まあまずは病院に行って、江藤さんに相談するのが良いんだろうな。でも、通報される確率高い気もするし・・・・。いや、必ず何かを知っているはずだ!
病院は家から十分程の所にあるので、さっそく出かけることにした。