第4話 事故?
インドア派であまり体力は無いが、女性よりは体力を持っているはずだ!と思っている時期が僕にもありました・・・・。坂道を登っていくが、明らかにペースを合わせてもらっているが分かる。完全に息が上がっている僕に比べて、麗さんは汗一つかいていない。結構ショックだ!
「もう少しですよ、頑張ってください!」
「は、はひ~」
我ながら情けない声が出たと思う。かっこ悪すぎる。まだ15分ほどしか歩いていないはずなのに、筋肉が今にも白旗を上げようとしている。そんな体に鞭を打ちながら必死に歩く。目的地が分からないというのもつらいポイントに入るだろう。
「ほら!見えてきましたよ!」
足元ばかりを見ていた顔を上げると結構大きいコンクリート製と思われる展望台が見え始めていた。ここに住んでからは結構長いが初めて知った。結構家から近いはずだから知っていてもおかしくないはずだけど、反対方向ばかりに行くから知らなかったのだろう。
「小さい頃から良くあの展望台から星を眺めていたの」
近で見ると、かなり昔に建てられたことが分かるほど蔦や木が絡まっていた。何だかちょっと怖い気もするが、折角お気に入りの場所を教えてくれたのだから、本音を言うのは失礼だろう。老朽化も進んでいるようで、所々が欠けている事も分かる。
中に入ると、所々が崩落しており木の根が中まで侵入していた。階段前には立ち入り禁止の看板が置かれ、今にも崩れそうな階段が暗闇の中にかすかに見える。本当に大丈夫なのかな?かなり心配になってきた。
赤いコーンの間を抜けて階段を上る度に、パラパラと石が崩れる音がする。足元を確かめながら一歩一歩進んでいくと、遂に外が見え始めた!時間にしては2分も掛かっていないだろうが、とてつもなく長く感じられた。麗さんが迷わず進んで行ってくれたおかげで、少し恐怖心が薄れたが、一人だと絶対に上れなかっただろう。それ程怖かった。
怖かったかいも有ってか、星空は今までに無いほど綺麗だった。空には雲一つなく、さらに新月という好条件が重なっていたので、細く暗いながらも天の川を見る事も出来た。星座にはそこまで詳しくないので、麗さんに解説してもらいながら、星を眺める。何だかデートっぽくてすごく楽しい。
「そろそろ帰りましょうか?」
「そうですね、お腹もすいてきましたし」
「すいません、長い事付き合ってもらちゃって」
「いえ、楽しかったですから」
「それじゃあ、今日一日ありがとう・・・さようなら」
「え!?」
お腹が異常に熱い。まるで中から火で炙られているような熱さだ。
「ウワッーーー!!イタイイタイイタイイタイイタイタ・・アアアアァ~~~~」
お腹を見ると何かが貫通している。その先をたどると麗さんが、いつも道理にっこりとほほ笑んでいる。
「最初見た時から、おいしそうって思ってたのよ。それにとっても美味しそうな血のに・お・い」
「やめて!なんで!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
「内臓もとっても綺麗で美味しそう!安心して全部食べてあげるわ」
やっと僕は彼女が人喰だということに気付いた。刺さっている物が僕の血のせいかも知れないが、真っ赤なので多分、赤胛なのだろう。死ぬ間際だというのにそんなことを考えてしまう。すでに痛覚は消え始め、目もボンヤリし始めた。
(・・・・・ああ、僕死ぬのか)
消え始めた意識の中でそんな事を考えていると、どこからか”ガラガラ”と言う音が鳴っている事が分かった。と、思った瞬間僕は浮遊感に包まれた。
(ああ、僕はもう死んだのか)
そんな考えをしている時に目の端に誰かが見えた気が・・・・ここで僕の意識は完全に途切れた。
夢を見た。そこは地平線まで広がる野原で、空には焼けるような太陽が浮かんでいる。自然の香りが鼻いっぱいに広がり、澄んだ空気が肺を満たす。気持ちよくなった僕は思わず地面に寝っ転がり、年甲斐もなくコロコロと転がる。
(ああ、気持ちいい!)
自分だけの世界を楽しんでいると、何か刺激臭が鼻を突いた。あたりを見渡すと、青々としていた若葉が枯れていく。その中心には
「麗・・・さん」
僕を殺した張本人、朝霧麗がニコリとほほ笑んだ。しかしそんな笑顔も今では嫌悪しか感じない。そりゃだれだって殺された人を恨むだろう。
「久しぶりね、まもる君」
「何しに来たんですか」
「ちょっと、ごあいさつに、ね」
意味が分からない!なぜ殺した相手にそんなに普通に話しかけられる!狂ってる!
「意味が分かりません!」
「実は色々あって、私の心とあなたの心が結合しちゃったのよ」
「どういう意味ですか!?」
「実は私、死んじゃったの。瓦礫に押しつぶされて、圧死だったわ」
「えっ!?」
「それでまもる君持瀕死の重体だったのよ。まあお腹に穴が開いてたのだから、当たり前か。そこで君は手術をされた。その時どういう経緯か知らないけど、医者に私の核を入れられたのよ。核とは心が宿る場所、肉体が死んでも私の心は残ってるの。その心が君に入れられたせいで、心と心が繋がっちゃったってわけ」
「つまり、僕の中にあなたがいる・・・・」
「まあ、そう言う事。そろそろ時間ね、医者が来たわよ」
急速に景色が歪んでいき、目を開けるとそこには知らない天井が広がっていた。