第十話 8
「ちゃんと飯を食っているのか? 良かったらこれを食えよ」
先輩で仕事仲間の広畑さんが、奥さんの手作りのおにぎりを二つ放り投げてくれて言った。今日は土曜日で学校がないので、朝から二人仲良くビルの解体工事を手伝っていた。公園でぶっ倒れて病院で栄養失調だと言われたし、最近ではさすがに飯抜き状態で力仕事をするのは控えていたが、それでもいつも腹は減っていたので、広畑さんのおにぎりは正直言ってありがたかった。さっき持参した弁当を食べたばかりなのに、貰ったおにぎりもペロリと食べてしまった。
「お前ら、料理人になるって言ってたよな」
「はい、そのつもりです」
「レストランに就職するのか?」
「そうできればいいんですけど」
西田が言った。
「僕はどうしようか考え中です」
そう僕が言うと、西田はびっくりして僕のほうを振り向いた。
「この間から、ハンバーガー店でもアルバイトを始めたんですよ。ハンバーガーを作るのも食べるのも好きだし、お客さんの顔もすぐそこに見れるし、ファストフード店もなかなかいいなと思ってます」
「そうか……。若いのにすごいしっかりしてるな。二人とも頑張れよ!」
そう言って広畑さんは笑った。
土方のアルバイトを終えて二人で通りをフラフラと歩いて帰っていたら、西田は「川原がそんなことを考えていたなんてちょっと意外だったよ。だってお前んち、懐石料理の店だろ? だからてっきり日本食の料理人になるんだと思ってた」と言った。
「最初はね、そうしようかと思ってたんだよ。でも年子の弟がもう親父の店で働いてるしね。俺は俺で自立しようと思ってるんだ」
「それでファストフード?」
「ファストフードというより、ハンバーガーかな」
「なんでまた?」
「この間、真夜中に道端でぶっ倒れてたら、親切なおじさんにハンバーガーを食べさせて貰ったという話をしただろ?」
「うん」
「それがきっかけ」
「マジで?」
「そのハンバーガーが滅茶苦茶美味しかったんだよ。肉がジューシーでソースも上品で。それなのに五百円もしないっておじさんは言ってた。だから、そういう商売もいいなと思ったんだ」
「ふーん」
「でもさ、お前はさ、俺と違ってエリートじゃん。だから一流ホテルのレストランの一流シェフになるべきだよ。この間も学内コンテストで一位になってただろ?」
「ホテルで仕事をしたいとは思ってるけど……」
「俺は俺の人生を歩むって決めたんだ」
「そうか」
「うん」
「なら俺もお前を応援するし、俺は俺で頑張るよ」
「うん!」




