第十話 5
調理実習のないある日の昼休み、今日の昼飯にしようと昨日の夜にスーパーで買い置きしていたパンを持ってくるのを忘れたので、仕方がないから今からコンビニに行ってカップラーメンでも買って食べようかと思って財布の中身を確かめたら、なんと五円しか入ってなかった。そうだった、昨日、バイト料を貰って家賃と光熱費を払って、食糧を買ったら金が無くなったんだった。これじゃ、何にも買えない。一週間前も飲まず食わずで土方のアルバイトをしていて、真夜中に道端で倒れていたら、たまたま通りがかった見知らぬ親切なおじさんに、持っていたハンバーガーを食べさせてもらったことがあった。
しかし、今日もマジで昼飯抜きかとその事実に愕然としながら公園のベンチに座っていたのだが、ふと遠くを見ると、向こう側のベンチに座って、持参の弁当を仲良く食べている女子二人が目に留まった。よく目を凝らして見てみると、彼女たちは僕と同じクラスの女子二人で、顔見知りだった。昼からも授業はあるから、当然のごとくまた彼女たちと教室で顔を合わせることになる。昼休みの間中、ベンチに座っていようと思っていたのに、ここにずっと座っていると彼女たちに昼飯抜きということがばれるんじゃないかと思い、仕方がないからどこか他所で時間を潰そうとベンチから立った瞬間、どこかから小さいオモチャのボールが飛んで来た。
僕は運動神経は良いほうだったので、難なくボールを手で受け、持ち主である五歳くらいの可愛い男の子に、「ほらよ」と優しく投げ返してあげた。そうしたら、その男の子は余程嬉しかったのか満面の笑顔で「お兄ちゃん、ありがとう!」と言った。僕も「どういたしまして」と言ったのだが、その子は人懐っこい子で、ニコニコしながらまた僕にボールを投げてきた。
僕も子供好きだったから、なんだか嬉しくなって、そのままその子としばらくキャッチボールをして遊んでいたのだが、何せ五歳の子が投げるボールだから、どこへ飛んでいくか分からない。僕は彼の投げるボールに振り回されながら、公園中を走り回っていた。しかし、ある瞬間、急に目の前が真っ暗になったかと思うと、そのまま意識が遠のいた。
気が付くと、僕は病院のベッドの上で寝ていた。腕には点滴の針が刺さっていた。目を覚ました僕に気付いた看護婦さんは「あら、気が付いたのね。気分はどうですか?」と言った。
「あ、あんまり……」
「そうですか……。もう少し寝てたほうがいいかもしれませんね」
「あ、あのぉ、僕は一体……」
「公園で突然倒れたらしいですよ。付き添って来た女の子たちが言ってたわ」
「あ、そう言えば……」
「でも大したことがなくて良かったですね」
「はぁ、そうなんですか……。やっぱり、飯を食ってなかったから倒れただけなのかな……」
「そうみたいだけど、でも慢性的に栄養失調みたいだから、ちゃんとご飯を食べるようにしてくださいね。それと、お薬が出てるみたいだから、当分の間、それも飲んでください」
「は、はい……」
そんなこっぱずかしい会話を看護婦さんとしていたら、先生もやって来て看護婦さんと同じことを言い、そのすぐ後に、僕に付き添ってくれた同級生の女子二人も現れた。僕は本当に気まずかったが、とにかく親切な人たちにラッキーにも助けられたのだという事実にちょっぴり感動していた。




