第十話 2
そんなことを繰り返して、一年経った頃、諦めかけていた奇跡が起こった。僕は、ある日、電車の中で、故郷の同級生の懐かしい顔をついに発見したのである!
彼の顔を見たとき、僕は一瞬、自分の目を疑った。東京にいることを想像だにしたことのない顔がそこにあったから。彼は、高知を出ることなんて一生ない人間だろうと思っていた。てっきり地元の大学に通って、父親の経営する印刷会社を継ぐのだと思っていた。確か、高校の卒業式のときも、そんな話を同級生達に交じって話していたと思う。
「よっ! 久しぶり!」
僕は電車の中で彼に駆け寄り、そう声を掛けた。
「?」
「川原だよ! 西田だろ?」
「あーっ!」
「びっくりした?」
「う、うん!」
「旅行で東京に来てるの?」
「いや、四月に上京したんだよ」
「ほんとに? じゃあまだ一ヶ月しか経ってないじゃん」
「うん」
「でも、なんで? 地元の大学に受かったから行くって言ってなかったっけ?」
「うん、そうだったんだけどね。いろいろあって辞めたんだよ。春から専門学校に通ってる」
「ふーん、そうなんだ」
「東京は楽しいかい?」
「友達ができてからは楽しくなったかな。でもやっぱり、高校のときみたいな付き合いはできてないから、淋しいといえば淋しいかも……」
「そっか」
「うん」
「川原は調理師になるんだろう?」
「うん、そのつもり」
「高校のときも、料理人になるってしょっちゅう言ってたもんな」
「うん」
「実はね、俺もそのつもりで東京に出てきたんだよ」
「え?」
「もしかして、通ってる専門学校も同じかもね。でも、川原のほうが先輩になるけど」
「マジで?」
「うん。だって、代々木で降りるんじゃないのか?」
「うん」
「だったら、多分、同じ学校だよ」
「マジかよ!」
高校の同級生の西田隆弘と電車の中で偶然出会って、そう会話した後、僕達は二人して意気揚々と同じ駅で降り同じ学校の門をくぐったのだった。




