第一話 9
風呂から上がって、みんなでご飯を食べた。今日の夕飯は鶏の唐揚げだった。僕と輝と黎は男の約束という感じで、缶拾いのことは誰も喋らなかった。だけど、やっぱり手強い澪が訊いて来た。
「それで、いくらになったの?」
「はぁ?」
「だから全部でいくらになったのか訊いてるの」
佐都子のほうを見ると、顔が引きつっていた。
「知らないよ。ただ拾って、おばあちゃんに渡しただけだから」
僕がそう言うと、佐都子が「何を? 何を拾ったの?」と訊いてきたが、澪が「お母ちゃんは黙ってて」と言ったので、佐都子も渋々黙った。でも黙った佐都子の目は、爛々と輝いていた。
「結構大変だったでしょ」
「うん」
「一月頑張って拾って、五万円くらいだっておばあちゃんが言ってた」
「ふーん」
「でも、娘さんが三人いて、三人から毎月一万円ずつ仕送りがあるから、全部で八万円になるんだって。私、それ聞いて少し安心しちゃった」
そう澪が言った。
「あのぉ、ちょっと、聞いていい?」
「うん」
「なんでそんなに詳しいの?」
「え、だって、私、高木のおばあちゃんと仲良しだもん」
「ふーん、そうなんだ」
「それに、私もたまに缶拾いの手伝いをしてるんだよ」
「えー、そうなの? ゴミ拾いなんて汚いとか言ってたのに?」
「あ、ごめん、お父ちゃん。私、嘘吐いてた。でも、五年になったら吹奏楽部が忙しくて、学校から早く帰れないから、最近はそんなに手伝ってない」
「ふーん」
佐都子は「なになに?教えて」と言って、そのあと澪から延々と説明を受けていた。ご飯を食べ終わった輝と黎と爾は、隣りの居間で、怪獣ごっこをして暴れまわっていたが、ときどき、輝が立ち止まって駄菓子がたくさん詰まった袋から、配給のように黎と爾に配っているのを見て、「うちに駄菓子なんかあったっけ?」と僕が言ったら、澪は「あれ? お父ちゃん、今日一緒に缶拾いしたんでしょ?」と言った。
「一緒に缶拾いしたけど、それがどうかした?」
「え? お父ちゃん、知らないの?」
「なにを?」
「だから、あの駄菓子って、高木のおばあちゃんからのご褒美なんだよ」
「へ?」
「見てなかったの? おばあちゃんがあいつらに駄菓子を渡すところを」
「う、うん」
「だから、そういうこと」
「はぁ?」
「あいつらは駄菓子目当てで缶拾いをしてたんだよ」
「えーっ!? ほんとにっ!?」
「うん。だって高木のおばあちゃんちって、駄菓子屋の隣にあるじゃん」
僕はがっくりして腰が砕けて、その場にへなへなとしゃがみこんだ。