第九話 7
うちの店はハンバーガーショップだから、やはり夜よりも昼のほうが混雑しているのだが、昼は従業員の人数が夜より多いので、昼も夜もあんまり変わらないしんどさではあると思う。だけど、夜でもなんでだかお客さんが集中しまくる時間帯があることがあって、そういうときはてんやわんやになる。中国人従業員は日本人より勤務年数が長い人ばっかりで、唯一周さんだけが、三ヶ月前に入った新人だった。日本人の玲子さんと学生の武智さんも勤務年数は一年ほどで、中国人四人と玲子さんと武智さんの六人で主に夜のシフトを回していた。
ある日の夜のこと、シフトが李君、周さん、玲子さんになっていて、李君、周さんは午後八時まで、玲子さんは午前零時までの勤務で、いつも通り午後十時に王さんが出勤してくることになっていた。その日は、夕方もお客さんが少なく、このまま夜も客足は少ないのかなとみんな予測していたのだが、午後九時半を回った頃に、お客さんが一人来たかと思うと、その後立て続けに五組もお客さんが来て、レジの前に列が出来ている状態になっていた。
「李君、裏で何してるのかしら?」とうんざりするような感じで周さんが言うと、玲子さんも「ほんとにね……。でもね、私も李君より後から入ったからあんまり強く文句も言えなくてね。李君のさぼり癖はなんとかしてほしいもんだわ」とため息を吐きながら言った。
「でも仕事は完璧なんですよね」
「そうね。エンジンがかかると、物凄い勢いできっちり仕事をするわよね。そこはさすがよね」
二人はそう会話しながら、必死で客をさばいていた。と、そのとき、店舗の裏の事務所で突然大声が鳴り響いた。
「#$%&○X#$%&~~~~~っっっっっ!」
「%&……」
「#$&#$%#○&%$#&%$○#&%$##$%&&%$#!!!」
「……」
「バカかっ!!!!!」
あまりの大声だったので、二階にまで声が聞こえてきて、僕は慌てて店舗に降りて来てしまっていた。そしたら、王さんが出勤してきていて、李君を怒鳴りつけていた。しかし、中国語なので、周さんは理解できていたようだが、日本人の僕と玲子さんは呆気にとられていた。最後の「バカかっ!」だけは分かった。でも、王さんはあまりに興奮しているためか、みんなが後ろから見ていることに気付いてないようで、怒号はまだ続いていた。仕方がないので、周さんに通訳を頼むことにした。
「#$&$%#&%$#&%$#¥#&$?」
『こんなに忙しいのにお前は何をしていたんだ?』
「#&%$%&%%$¥#&%$%!」
『か弱い女性が二人で頑張っているのに!』
「#&%$#&%$#&%$#?」
『お前は仕事をしに来ているのか?』
「#$&$%#&¥$&¥&%?」
『それとも遊びに来ているのか?』
「#&%$85#&%$¥&#$9!」
『ゲームなんかやってるんじゃないよ!』
「#&%$#&%$#!」
『お前なんか辞めちまえ!』
「#&!」
『ぼけ!』
王さんが李君に殴りかかろうとしたので、僕は慌てて止めた。すると、王さんはそこで初めてみんなが事務所にいることに気付き、普段寡黙な王さんは大いに照れ、膨らんだ風船が萎むように途端に大人しくなった。でも、その場に居合わせた女性二人はやっぱり嬉しかったみたいで、周さんと玲子さんはニコニコしていた。
「まぁ、李君も家にパソコンがないそうだし、触りたい気持ちも分かるけどね。でもそれは、せめて休憩時間にしなくちゃね」
と僕が言うと、みんなが頷いて、その日の騒動はそこで収まった。




