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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第九話 6

 そんなこんなで、王さんの節約生活に感化された佐都子は、ますますケチに拍車がかかった。二人で情報交換して節約生活に役立てているようだった。子供が寝静まった後の夫婦の語らいの時間に、佐都子は王さんの節約生活を嬉々として僕に語るようになった。


「あのね、王さんのアパートの裏の路地って菜園にしてるのよ。だからそこで採れた野菜を食べてるんだって。主食がうちの賞味期限一日前のパンで、主菜がこれまたうちの冷凍焼けした牛肉のパテとソーセージね。栄養失調にならないか心配だったけど、お肉類は食べてるから安心だわ。給料日前になって懐が淋しくなったら、もやし炒めとか卵料理を作って凌ぐんだって。お米は高いから滅多に買わないそうなんだけど、でもやっぱり食べたいからたまに食べるって言ってた。でも、パンがないときは麺類が安いから麺類を食べることが多いみたい。あとね、食料品も生活用品も百円均一のお店で買うんだって。勿論、クレジットカードでね。ポイントが溜まるでしょ? 多分、普通のスーパーで買うより、三分の一くらいは節約できてると思うって言ってた。トイレもなるべく外で済ませてから家に帰るし、電化製品も全然無いらしくて、掃除機も無いから、隣の部屋に住んでるお婆ちゃんに教わったと言ってたけど、茶殻を固く絞って畳の上に撒いて箒で掃いて掃除してるんだって。茶殻が埃をからめ取ってくれて、すごく綺麗になるそうよ。お風呂場の水垢は灯油で磨けば綺麗に落ちるみたい。タワシは私がアクリル毛糸で編んであげたタワシなんだけど、あれけっこう便利でね、食器だけじゃなくて風呂桶もあれで磨けばピカピカになるのよ。大して洗剤もいらないしね。でも、王さんは石鹸を手作りしてるからいいよね。でもシンクやガスレンジの酷い汚れは、卵の殻を粉にしてクレンザー代わりにして磨いてるの。散髪も劉君が鋏で切ってくれてるそうだけど、唯一の贅沢品はスマホね。でも、家族とラインやメールでやり取りしたり、テレビ代わりになるから、これは仕方ないわね。でもね、たまに中国の雑誌が読みたくなるらしいから、そんな時は図書館に行くんだけど、もちろん移動手段は警察で買ったリサイクル自転車なの。そう言えば、傘も警察で買ったと言ってたわ。それとね、高木のおじいちゃんが空き缶とペットボトルの蓋を集めてるでしょ? あれにシールが付いてることがあるじゃない? 輝たちが集めた分のシールをはがしてからおじいちゃんに渡してるんだけど、勿論、おじいちゃんには了承済みよ。それでね、この間そのシールで懸賞に応募したら、ゲーム機が当たっちゃって、うちにはもうあるやつだったから、王さんに『息子さんにどうぞ』と言ってプレゼントしたら王さんが泣いてた……」


 僕は一気にまくし立てて喋る佐都子の話を炬燵に入って蜜柑を食べながら聞いていたのだが、僕が蜜柑の皮をゴミ箱に捨てようとしたら、佐都子が「ちょっと待ったっ!」と叫んだ。佐都子が急に大声でそんなことを言うものだから、僕は驚いて食べていた蜜柑を房ごとブッと炬燵の天板に吐き出してしまっていた。

「もう、汚いなぁ。はい、これで拭いて」

 渡された紙を見たら、ティッシュではなくトイレットペーパーだった。佐都子はいつの間にかトイレットペーパーカバーなるものを毛糸で編んで作っていて、トイレットペーパーの芯を抜いて、真ん中から引っぱり出して、少しずつちぎって使えるようにしていた。良かった……少なくともうちは電話帳の紙を揉みほぐしたティッシュではないらしい。


「だからね、蜜柑の皮は捨てたらダメなの。貴重品なのよ」

「え? ああそう言えば、漢方薬で蜜柑の皮ってあったような……」

「そうだったっけ?」

「うん」

「でも、違うの。蜜柑の皮の油で床磨きするのよ」

「はぁ?」

「これがね、凄い綺麗になるのよ」

「へ、へぇー……」

「匂いもいいし、一石二鳥でしょ?」

「そ、そうだね……」

 これ、いつまで続くんだろうか?と、僕は少々恐怖を感じていた。


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