第九話 1
人は何のために働いているのだろうか?
食べるため。
生活していくため。
生きていくため。
いつか死ぬのに?
自分のため。
妻のため。
子供のため。
自分のためだけじゃなく、誰かのため、
殊に愛する人のためならば、
働き甲斐があるというものだろう。
自分のためでなく誰かのためだと、
どうして人はこうも頑張れるんだろう?
「お父ちゃん、この電話帳、去年のだからもういらないよね? 貰ってもいい?」
輝が電話台の扉を開けて、古い電話帳を引っぱり出しながら言った。
「ああ、うん。そういえば、この間、新しい電話帳が来てたからいいよ」
「一昨年のもいいよね?」
「別にいいけど……何に使うの?」
「王さんにあげるの」
「王さんにあげるんだったら一冊でいいんじゃない? 去年のも一昨年のもあんまり変わらないと思うよ」
「沢山あるほうがいいんだよ」
「?」
「集めてるんだって」
「えー? 電話を掛けるためじゃなくて?」
「うん。新聞でもいいみたいだけど、電話帳のインクは手があんまり汚れないからいいんだって」
「はぁ?」
「新聞も貰っていっていいよね?」
「別にいいけど……重そうだから手伝おうか?」
「ありがと! じゃ、新聞をお店の事務所まで運んどいて」
「う、うん」
王さんが何のために電話帳や新聞を必要としているのか、全然見当が付かなかった。少なくともちり紙交換に出すためではないらしい。




