第八話 11
それから、一週間して、月子さんは退院した。そして、退院したその足で、月子さんは佐都子を訪ねてくれた。
いつものように、フリルとリボンとレースの付いたブリブリの純白のドレスを着て、これまたレースの白い日傘をさし、籐で編んだ籠を持ってやって来た。そして、またいつものように店の同じテーブルに佐都子と向かい合って座り、ケーキとミルクティーでお茶しながら、笑顔で通算一四回目の自己紹介をした。
だけど、今日は一つだけ違っていた。今日はいつものように裸足ではなかった。月子さんは、ちゃんとレースの靴下とエナメルの靴を最初から自分で履いて、店に佐都子に会いに来てくれた。そして、月子さんはこう言った。
「入院している間、母が好きだったゲーテの格言集を、伯母に家から持って来てもらって、読んでいましたの。その中で、一番好きな言葉を佐都子さんにどうしても聞いてもらいたかったから、今日は飛んでやって来ました。聞いて下さるかしら?」
「ええ、もちろん、喜んで」
佐都子のその言葉を聞いて月子さんはもっと笑顔になったかと思うと、急に神妙な顔になり、一呼吸おいて息を整え、口を開いた。
「『空気と光と、そして友達の愛。これだけが残っていれば、気を落とすことはない』。ね、素晴らしい言葉でしょ?」




