第八話 8
そしてまた三日経って、再び月子さんは裸足で店の前に現れた。今日も月子さんはいつものようにブリブリの純白のドレスを纏い、日傘をさして籠を持っていた。僕は月子さんを見かけると同時に、佐都子から光を預かり、「行って来い!」と彼女の背中を軽く叩いて、気合を入れた。佐都子も笑顔で僕の顔を見て頷き、それに応えてくれた。
月子さんはまた花屋で水色のリボンを付けたカスミソウの花束を注文し、ケーキ屋でチーズケーキを三個買った。
そして、今度は通りの向こう側に渡り、本屋へ入った。そして、ずっと探し物をしていた。でもなかなか見つけられない。しかし、佐都子は月子さんが何の本を探しているのか、彼女に話しかけることができないのである。だって、話しかけたらお終い、そこで魔法はとけてしまうから。夢見る乙女は、途端に現実に引き戻されてしまうのである。目的の物を探し出すのは、月子さん自身でなければならないのだ。だから、佐都子は月子さんに誰も接触しないように守りながら、辛抱強く待ち続けた。
そして三十分経って、月子さんは目的の物をやっと見つけることができた。その本は本屋の片隅の書架の一番端にあった。月子さんはそれを見つけると笑顔になり、そっと書架から抜き出した。それは「ゲーテの詩集」だった。薄くて滑らかで、つる草のイラストが表紙を縁取っている美しい愛の詩集だった。誰か愛する人に贈るのに、これほど相応しい本はないだろうと思われるようなものだった。
月子さんは、ここでもレジで、お釣りはいらないと言い張っていたが、佐都子がまたもや助け舟を出した。月子さんは、花束とケーキと詩集を抱え、意気揚々と本屋を出た。佐都子は嬉しそうな月子さんの様子を見て、探し物は全部探せたのだと思った。けれども、月子さんは本屋を出てまた向こう側に渡り、花屋とケーキ屋が並んでいた元の通りに戻ると、また一心不乱に南に向かって歩き始めた、真っ直ぐ、真っ直ぐ、どこまでも真っ直ぐに……。
一体どこまで行くのだろう? そう思いながらも、佐都子は月子さんを見失わないように、後ろからついて行った。だけど、前から歩いてきた初老のご婦人に月子さんは呼び止められた。そして、月子さんは正気に戻った。
「そのご婦人は一体誰だったの?」
僕は佐都子に訊いた。
「月子さんの伯母様だったのよ。月子さんの家の隣りに住んでらっしゃるの」
「爾が言ってた武者小路さん?」
「そう。伯母様、月子さんのことをすごく心配してた。だから、もう月子さんの探し物を探す手伝いをやめることにしたの」
「そう……」
僕も佐都子も意気消沈していた。




