第八話 7
それなのに、三日後にまた月子さんが店の前を裸足で通ったとき、佐都子はとるものもとりあえず、光を背負ったまま飛び出していた。そして月子さんを尾行した。
月子さんは、この間と同じように、花屋の前でピタリと止まると、同じように水色のリボンの付いたカスミソウの花束を注文し、花束を抱えて無表情で店を出た。月子さんは「お釣りはあなたに差しあげます」とまたもや店員さんに言っていたが、言われた店員さんは当然困惑していた。佐都子は月子さんが意識を回復したときに返すつもりで、「私は付き添いです。どうもすみません」と彼女の代わりにお釣りを受け取った。
店を出ると、また月子さんの知り合いと思われる年配の男性が彼女に声を掛けようとしたが、佐都子は慌てて止めに入った。そして、その男性に「ごめんなさい。今日は急いでいるので、詳しいことは説明できないんです!」と説明した。
そして、月子さんは、そんな佐都子の苦労を知ってか知らずか、また通りに出て真っ直ぐ歩き続けたかと思うと、今度はケーキ屋の前でピタリと止まった。そして店の中に入り、ショーケースを一通り見渡すと、迷わずチーズケーキを三個注文した。そして、それを彼女の持っている籠の中に入れて、水色の小花柄の布ナフキンを上から丁寧にかけると、また外に出てどこかに向かおうとしていた。
その間、佐都子は辛抱強く月子さんを見張っていたのだが、背中の光がぐずり出し、それに気を取られている瞬間に、裸足で歩いている月子さんに、下校途中の小学一年生が「お姉ちゃん、なんで裸足なの?」と声を掛けた。「しまった!」と思っても、もう遅い……。月子さんは自分の裸足の足を眺めて、「あら? ほんとに? なんで裸足なのかしら?」と逆に小学生に尋ねていた。小学生は途端に変な顔をして「気持ちわるーっ!」と叫んでその場を走り去った。
佐都子はたまりかねて、「月子さん、今日はお茶する約束の日ですよ」と声を掛けて、彼女を家に連れて来て、濡れたタオルで足を丁寧に拭いて、靴下と靴を履かせていた。月子さんは、心なしか今日は元気がないようだった。いくら子供でも、あんな風に言われたら、誰だって元気がなくなるだろう。
「私……気持ち悪いですか?」
「そんなことないですよ」
「でも……」
「月子さん、自己紹介しないんですか?」
「あ……」
「いつもの月子さんらしくないですよ」
そう言うと、月子さんは笑顔になって、またいつものように十三回目の自己紹介をした。
「今日こそ、月子さんの探しているものを突き止められると思ってたのに……」
佐都子は余程がっくりしたのか、今日はいつもより、ワインをがぶ飲みしていた。
「全くもって、ご苦労さん」
「ほんとにご苦労さんだよ」
「今日は、チーズケーキを買ったんだね」
「うん、しかも三個」
「二個じゃなくて、三個ってところに謎が隠されているような気がする」
「え、そう?」
「うん」
「でもね、お茶してるときに、月子さんに訊いてみたんだけど、なんで三個買ったのか分からないと言ってたよ」
「えー、そうなのか……。でもさ、花束にリボンをつけてるところと、違う種類ならともかく同じ種類のチーズケーキ三個というのは、自分のために買ってるようには思えないな」
「そうだね……。そう言われればそうだね」
「そうだろ?」
「やっぱ、一樹って頭いいね!」
「僕が頭いいのは、この間分かったんじゃないの?」
「あ、そうだった。でも、また月子さんを尾行しなきゃいけないんだね。まだしっくり来ないって言ってたもん。でも、もう、疲れたよ……」
「じゃあ、次は僕が代わるよ」
「だめ!」
「どうして?」
「だって、月子さんは私の大事な友達だもの」




