第八話 4
それから三日経って、また僕の仕事が休みの日になった。この間、佐都子が楽しみにしていてやっと実現した優雅なランチタイムが中断されてしまったので、今日また続きをしようということで、近所の同じカフェの同じ席で二人でランチをとっていた。
二人でランチをとっていて、最後のデザートの皿になった時、背中の光が騒ぎ出したので、降ろして膝の上に座らせて、デザートプレートに載っているリンゴを食べさせてやった。光は美味しそうにリンゴを齧っていたけど、もう少ししたら、一緒にご飯を食べられるようになるから、早く大きくならないかなと思いながら、二人で光を眺めて笑っていた。
こんな何気ない日常が、僕にとってすごく幸せなことなんだなと実感していた。だって、月子さんは、あの豪邸でたった一人で暮らしていると聞いていたから。
「月子さん、今日も元気かな……」
「元気だと思うよ。月子さんが出歩くときって、必ず午後一時三十分にうちの前を通るって決まってるの。この間は、ここのカフェの前で見かけたときって、一時三十一分だったでしょ?」
「えー、ほんとに? 気付かなかったよ」
「今はもう午後一時四十分だから、元気だと思うよ」
「出歩いてると元気がないの?」
「そうみたい。いつも家で、本を読んだりピアノを弾いたり映画を見たりして、楽しいって言ってたよ」
「出掛けてるときは、人恋しいとき?」
「そうかもしれない」
「でも、月子さんが裸足だとなんでやばいの?」
「コンビニの店長が言ってたけど、裸足のときって夢遊病者みたいになってて、いつもフラフラしては警察に保護されてるんだって」
「……」
「でもね、靴を履いてるときは大丈夫なの」
「意識があるから?」
「うん」
「最初に佐都子が月子さんと出逢った日って、途中で意識が回復したのかな。だって、足が寒いって気付いて、軍手を買ったんだから」
「そうなのかな……、だったら、軍手を足に履いたりする? ああ、多分ね、店長が声を掛けたから元に戻ったんだと思うよ。今考えれば、恥ずかしそうな顔をしてたような気がするもん。でもその後も、軍手を履いたまま帰って行ったけど……」
「ふーん。なんだか月子さんを見てると、人間、何が幸せなんだか考えさせられるよ」
「そうだね……。でもさ、月子さんはまだ若いんだから、人生これからじゃん。これから幸せになればいいよ」
「そうだ、そうだ! その通りだよ!」
佐都子はいつも前向きである。




