第八話 3
ある晴れた休みの日、光を背負った僕は佐都子と一緒に、この間、うちの三軒先に開店したオープンテラスのあるカフェで、ランチを優雅にとっていたのだが、この間着ていたドレスとは少し型が違うこれまたリボンとレースのついたブリブリの純白のドレスを着た月子さんが片手に籠を持ち、もう片方の手で日傘をさして、僕たちの目の前を通ろうとしていた。
彼女の視界には僕たちは入ってないらしく、まっすぐに前を向いて一心不乱にどこかに向かっていた。しかも月子さんの足元を見ると、今日も裸足だった。僕と佐都子は彼女のその様子を口をあんぐり開けて見ていたが、佐都子はふと何かに気付いたようで「やばい!」と叫んだ。
「え? 何がやばいの?」
「月子さんが裸足のときって、碌なことが起こらないのよ!」
「ええっ? だったら、今すぐ月子さんを引き留めたほうがいいんじゃないの?」
「うん!」
佐都子はそう返事をしたかと思うと、急いで月子さんを追いかけた。そして彼女を引き留めると「月子さん! 今日は私とお茶する約束でしたでしょ?」と声を掛けた。すると彼女は「まぁ、そうでしたわ。申し訳ありませんでした。忘れておりましたわ」と笑顔で言った。
それで、必然的に今日の僕たちのランチタイムはそこで終了し、今、うちの店で笑いながら十回目の自己紹介を月子さんは佐都子にしているわけである。僕は、ほぉ、こんな風な流れでいつも二人はお茶することになってるんだなと思いながら、二人が楽しそうに話をしている様子を眺めていた。
月子さんは帰り際、店にいる人全員に向かって「みなさま、御機嫌よう」と優雅にお辞儀した。彼女の足元を見ると、いつの間にかちゃんと靴下と靴を履いていた。佐都子は、いつものように月子さんに付き添い、彼女の自宅まで送って行った。
それから暫くして、佐都子は家に戻ってきたのだが、今日は僕の仕事が休みだったので、佐都子と二人で餃子を山ほど作ってみんなで夕飯に食べていた。
「ねぇ、ちょっと疑問だったんだけど、裸足の彼女が帰る時には、なぜ裸足じゃなかったの?」と僕が訊いたら、佐都子は「彼女を家に送って行ったときに、次のときのために靴と靴下を預かって来てるから」と言った。
「なーんだ。あっさり疑問が解けちゃったな」
「え? なんの疑問?」
輝がそう訊いてきたけど、佐都子は「内緒」と笑いながら言って、答えなかった。澪も黎も「ずるー」とか「教えろー」とか言いながら騒いでいたが、何せ大皿に餃子をてんこ盛りで盛り付けているので、話をしている場合じゃなくて、餃子の取り合いになってしまっていた。やっぱり一人一人別々の皿に盛り付けたほうが良かったかなと反省していると、ふいに爾が「お父ちゃん、僕、知ってるよ」と言った。
「何を?」
「月子さんのことでしょ?」
「なんで知ってるの?」
「だって、裸足で歩いてるのは月子さんだけだもん」
「そうなんだ……」
「うん、月子さんの隣りの家の武者小路のおばあちゃんと僕は仲良しなの」
「え……」
「武者小路麻帆ちゃんと僕は友達だもの」
「そうなの? お母さん、知らなかったわ」
「だって、麻帆ちゃんはうちに遊びに来たことがないもの。僕がいつも麻帆ちゃんの家に遊びに行ってるから」
「えー、そうなんだ……」
僕と佐都子は同時にそう言ったのだった。




