第七話 7
この騒動があってから、一週間ほど経ったある日、家族で泊りがけでキャンプをすることになった。僕は盆休みが取れない代わりに、秋の祝日に秋休みを三日取ることにしているので、その休みを利用して、毎年恒例の奥多摩家族キャンプに行くことにしているのである。毎年恒例と言っても、去年は佐都子が身重で、佐都子抜きのキャンプだったので、今年は家族全員が揃うということで、子供たちも去年より嬉しそうだった。
しかも、今年は澪のリクエストで、リサちゃんと授業員の香苗さんも一緒に行くことになっていた。他の従業員さんも誘おうかと思ったのだが、澪が「香苗さんだけでいい」と言ったので、「なんで?」と訊くと、「香苗おばちゃんはいつも私とリサにおやつを作ってくれてるから」と言った。ああ、そうか、そう言われればそうだなと思った。香苗さんは木曜日に働くことを希望していて、毎木曜日にリサちゃんが遊びに来るので、二人にフライドポテトを毎回作ってくれているのである。それに、香苗さんはバツイチで一人暮らしをしていて家族がいないし、オバチャンズの他のメンバーは香苗さんを除くとみんな家族がいるから、休みの日にうちの家族とどうしてもキャンプに行きたいわけじゃないだろうし、バイトの若者達を一人でも誘えば全員誘わないと悪いような気がするし、香苗さんだけでいいかなと思った。香苗さんにその旨を話すと、大家さんから車を借りてくれて、しかも運転までしてくれるということで、うちの車と二台でキャンプに行くことになった。おかげで今年はいつもより車の中にスペースがあって、余裕でキャンプ道具を積むことが出来た。香苗さんの車には香苗さんとリサちゃんと澪が乗ることになり、僕の車の後ろからついてくることになったので、バックミラーを見ながら、香苗さんの運転する車がはぐれないように気を配った。
祝日だからやっぱり道は混んでいてうんざりしたが、キャンプ場は清々しかった。うちの三バカ息子は、着くなり川へ飛び込もうとしたが、僕は慌てて飛びこみ禁止令を出した。この寒空に川へ飛び込もうとするなんて、まったくもって呆れ果てるばかりだが、浅い川でも油断すると川底の石のヌルヌルする苔に足を取られて、溺れる可能性だってあるし、実際、この川でも何年か前に事故があったと聞く。なので、やっぱり、大人の見張りなしで子供だけで川に入ることは断じて禁止した。
今は行楽シーズンで、昨日テレビを見ていたら、ちょうど「自然の中で遊ぶ子供たち」と題して、林間学校で学ぶ子供たちを取材した番組をニュース番組のミニ特集でやっていたが、アナウンサーが「自然が好きな子供たちは、他の子供たちと違って、顔が生き生きしている」とコメントしていた。しかし、僕はそのアナウンサーの言葉に、思わずツッコミを入れていた、「違うだろー! 子供はみんな自然が好きなんだよ!」と。つまんない顔をしてる子供を自然の中に連れて行ったら、途端に笑顔になるに決まってるじゃないか!
そんなことを思いながら、佐都子と香苗さんと僕と大人三人で、バーベキューの支度をしていたら、あっちのほうで「ぎゃーっ!」という声がしたので、なんだろうと目を凝らしたら、三バカ息子が三人が三人とも水際ではあるが川に入ってずぶ濡れになっていて、彼らを見張っていた澪も彼らに水をかけられてカンカンになって怒っていた。その傍でリサちゃんは笑い転げていた。その様子を見ながら呆れ果てていたが、しばらく学校で元気がなかったと聞いていたリサちゃんの笑顔を見て、僕はなんだか少し嬉しかった。しかし、アイツら、あれだけ子供だけで川に入るなと言っていたのに! 家に帰ったらお仕置きをせねばならん!
佐都子も嬉しかったのか、「リサちゃん、楽しそう」と言ったら、香苗さんも笑顔で「そうですね」と言った。
「リサちゃんは兄弟がいないから、鬱陶しいかもしれないよ」
「そんなことないと思いますよ。鬱陶しかったら、毎週のように澪ちゃんを訪ねて来ないと思いますよ」
香苗さんが言った。
「そうなんですかね。勉強してるだけじゃなくて、リサちゃんは弟たちとも遊んでくれてるみたいだし」
「そうなのよ。この間なんか、居間でみんなで人生ゲームをしてて、すごく盛り上がってたわよ」
佐都子が言った。
「そうなんだ」
「うん」
「でも、学校であんなことがあったから心配してたんだけど、お祖母ちゃんはよくキャンプに行くことをOKしてくれたよな」
「澪が言ってたんだけど、今までは木曜日にうちに来ることをお祖母ちゃんはあんまりよく思ってなかったらしいんだけど、この間、一樹が学校でリサちゃんの汚名をはらしてくれたから、それからお祖母ちゃんが軟化したらしいわよ」
そう佐都子が言ったので、僕は嬉しくてニコニコしていたら、香苗さんは一人で事情がよく呑み込めてないような顔をしていたので、香苗さんに学校であったことを説明してあげたら、香苗さんもすごく笑顔になって「良い話ですね」と言っていた。
夜になり、テントを二張り張って、男部屋と女部屋に分かれて寝ることになった。光は女の子だが、光を度外視すると、うまい具合に男四人に女四人になってちょうどいいなと思ったけれど、女部屋のほうが窮屈そうだったので、澪に「男部屋に寝るか?」と訊いたら、「誰が寝るか!」と即答された。そう言えば、澪はいつも家で弟たちに踏みつけにされて寝ているので、今日くらいは解放させてやらなくちゃなと思った。しかもせっかく仲良しのリサちゃんと一緒なんだし……。ということで、僕も男部屋テントに子供たちと一緒に寝転がっていたら、日頃の仕事の疲れが溜まっていたのか、すぐに寝入ってしまった。




