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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第七話 5

 学校の校門に着いて、相談室に向かった。森本先生から、相談室のほうが教室より小さな部屋だから話しやすいので、そうさせてほしいという意向があったからだった。相談室に着くと、すでに森本先生がいて、先客もいた。なんと、リサちゃんのお祖母ちゃんだった。


 実は、今日、僕もリサちゃんのお祖母ちゃんも一緒に来てもらったほうがいいのではないかと内心思ってはいたのだが、何しろ、僕は佐都子と違って、リサちゃんのお祖母ちゃんとは面識が無いし、佐都子のあの嫌そうに彼女のことを語る口調から、先生とまず話をしてから、リサちゃんのお祖母ちゃんと話をしようと思っていた。なので、ほっとしたようなしてないような複雑な気持ちになった。きっと、森本先生は僕と一緒に話をしたほうがいいと思ったから、リサちゃんのお祖母ちゃんに連絡を取ったんだろうなと思った。

 しかし、先生に案内されて、ソファーに恐る恐る座ったのだが、でもなんだか、森本先生とリサちゃんのお祖母ちゃんの間には、不穏な空気が流れていた。僕はその雰囲気に飲まれそうになって、一気に気が重くなった。


「うちのリサが何をしたって言うんですか!」

「……」

「この間の本屋の件だって、リサはちゃんとお金を持っていたし、払うつもりだったんですよ。たまたま払うのを忘れて、本を脇に抱えて外に出てしまっただけなんです。それに、あの後、ちゃんと支払いを済ませたんですから!」


 「そ、そうですね……確かに支払いはしましたが……」と、騒動が起こった時、リサちゃんのお祖母ちゃんと一緒に本屋へ呼び出されて、あの場に同席していた森本先生はそう言ったが、僕は思わず「あんなかさばる本を脇に抱えてて忘れるなんてことがあるんですかね?」と口にしてしまった。そしたら、リサちゃんのお祖母ちゃんは僕を睨み付けて言った。


「ちょっと、川原さん! あなたは私が嘘を吐いてるとでも思っているんですか!」

「い、いえ、そういうつもりでは……。でもうちの子から、捕まるためにわざと盗んだと聞いたものですから」

「なんですって!? それじゃあリサは確信犯じゃないですか!」 

 しまった! つい本当のことを言ってしまった……。そう思ったのに、次に口をついて出た言葉は事態をさらに悪化させるものだった。


「そうだと思います」

「あなた! 自分の言ってることをちゃんと分かってて言ってるの!」

「わ、分かってるつもりですけど……」


 僕がそう言うと、リサちゃんのお祖母ちゃんは顔を真っ赤にして、さらに目を大きく開いて僕を睨み付けた。僕は彼女の空恐ろしい形相を見ながら、僕は一体ここに何しに来たのだろう?リサちゃんの味方をしに来たんじゃなかったっけ?と思っていた。

 相談室の空気は史上最悪のメガトン級に重いものになっていたが、たまりかねた森本先生が口を挟んだ。


「あ、あの、川原さんから少しだけ事情を聞いてるんですが……]

「何をですか! 学校の盗みの件もリサがやったと言うんですか!」

「い、いえ、ち、違います」

「じゃあ、何なんです?」

「その反対です。水野さんが盗むわけがないと川原さんはおっしゃってました!」


 その先生の言葉を聞いて、リサちゃんのお祖母ちゃんは、何か言いたそうだったが、十秒くらい口を開けたままで、やがて何も言えずにゆっくりと口を閉じた。僕はそれを見計らって、先生の代わりに口を開いた。


「本屋さんでの一件は、リサちゃんは本当に万引きしたんだと思います。でも学校の件は違います。一緒にしてもらっては困るんです!」

「ど、どういうこと?」

「だから、さっき言ったじゃないですか。リサちゃんは盗みたくもないのに本を盗んだんですよ」

「盗みたくもないのに盗んだですって?」

「お祖母ちゃんを困らせるために……」

「なんですって!」


 あーあ、さっきから、僕はなんでリサちゃんのお祖母ちゃんを怒らせるようなことばっかり言っているんだろう? でも、この最初の関門をクリアしないと、最後まで辿り着けないことは分かっていた。だから、僕は最初から真実を話しているのだ。


「とにかく! リサちゃんは、お祖母ちゃんとちゃんと向き合いたかったんだと思います。ただそれだけなんですよ。だから、学校の友達の物を盗む必要なんかないんです!」

「リサは大人しい良い子なんです! だからあの子が人様のものを盗むわけないんです!」

「そうですよ! そんなこと、分かってます! だから本屋さんでだって、わざと捕まるような目立つものを脇に抱えていたんでしょ?」

「?」

「リサちゃんの部屋を調べたって、盗んだものなんて一つもないはずです」

「あ、あの、川原さん、やっぱり、私はあなたが一体何を言いたいのか分からないわ」

「とにかく、問題なのは、リサちゃんじゃなくて、浩輔くんのほうだと思います」


 僕のその言葉を聞いて、リサちゃんのお祖母ちゃんも先生も「はぁ?」とわけの分からない返事を同時にした。


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