第六話 9
次の日は土曜日で、子供たちが学校や保育園が休みで、僕も夕方からの出勤だったので、家族総出で上野駅にオジサンを見送りに行った。思い立ったが吉日で、僕や佐都子のすすめもあってオジサンはさっそく今日、帰ることになった。前の晩は家に泊まってもらったのだが、ぼうぼう髭はなんとかなるにしても、ぼざぼざ頭をどうするかと悩んだが、オジサンが五分刈りでいいと言ったので、バリカンで僕がオジサンの頭を刈ってあげたのだった。
オジサンは、近くにいたのに、上野駅は上京以来行ったことがないらしく、「前と全然変わったなぁ」と感慨深げに言っていた。「しかも、新幹線で帰ることができるなんて、昔じゃ考えられなかった」とポツリと言った。上野駅では新幹線の停車時間もほとんどないので、オジサンとの別れをじっくり惜しむ余裕もなかったのだが、とにかくオジサンが新幹線に乗り込んで、席に座って落ち着いたところを確認するとほっとした。みんなで「お元気で!」と手を振ったら、オジサンは泣いていた。
上野駅からの帰り道、佐都子と並んで話しながら歩いた。
「オジサン、行っちゃったね……」
「良かったけど、なんだか淋しいね」
「うん。もう上野に行ってもオジサンはいないんだね……」
「そうだね」
そんな話をしていると、澪が話に割って入って来た。
「ねぇ、オジサンにお金も少しあげたんでしょ?」
「うん。青森駅に着いてからまたバスに乗りかえると言ってたし、家族へのお土産だって買いたいだろうしね」
「しかし、呆れるくらい二人とも、本当にお人よしだね」
「そう?」
「うん。あのオジサンが嘘を吐いてるなんて全然思ってないんでしょ?」
「えっ?」
「もしかして、嘘を吐いてたの?」
「嘘を吐いてるかもしれないじゃん」
「えー……」
「でもね、私はね、そういうお父ちゃんとお母ちゃんの娘に生まれて幸せだって思ってるよ」
そう澪は言って、輝たちのほうへ走り去った。僕と佐都子は澪のその言葉がすごく嬉しくて、二人でニヤニヤしながらしゃべりもせずに家路に着いたのだった。
家に帰って来て、さてコーヒーでも淹れてくつろごうかと思ったら、爾がさっきからずっと頭をボリボリ掻いているのが目に入った。佐都子もそれが気になったのか、爾の頭を調べていたのだが、佐都子が「ぎゃーっ!」と言って、僕のところに来て訊いた、「爾の頭にいる虫はなんの虫?」と。そう言われたので、爾の頭を調べてみた。この虫も図鑑で見たことのある虫だった。
「シラミが湧いてる」
「げー、またぁ……」
「これ、皮膚科に行って、ちゃんと先生に診てもらったほうがいいよ。シラミって一回湧くと、しつこいってきいたことがあるし……」
佐都子は「はぁー」とため息を吐いた。
「しかし、オジサンも困った置き土産を置いて行ったもんだね」
澪がそう言い、僕も深く頷いたのだった。




