第六話 4
翌朝、目が覚めたら、何か小さな虫に刺されたのか、手足にポツポツと小さな斑点ができていた。斑点は痒かったが、手で掻くと痛みがあった。蚊に刺されたときより、酷い腫れ様だった。横に寝ている爾の手足にも斑点があった。よく見たら、澪にも輝にも光にも佐都子でさえ斑点ができていた。
これは絶対に蚊ではない。でも他に虫が飛んでいる気配もない。
ええっ、もしかして、部屋に正体不明の虫が湧いてるのか?
それとも、今話題になっている外来生物の小さな毒蜘蛛でも部屋に侵入したのだろうか?
テレビのニュースでやっていたけど、あれは確か重症患者も出していたはずだ。そんなことを思い出していたら怖くなって、飛び起きて、みんなもついでに叩き起こしてしまった。
「うわー、ほんとだ……いろんなところを刺されてる……」
そう言いながら佐都子は自分の手足を眺めまわし、光の体も刺されていないか、パジャマを捲って確かめていた。澪も輝も爾も「痒い」と言って、手足を掻きまくっていた。
「とにかく、薬で部屋を燻さなきゃ。布団も干して、シーツも洗濯しなくちゃね……」
佐都子はため息を吐いていた。
僕は、薬箱から軟膏を取り出してきて、爾の手足に塗っていたのだが、澪が「きゃっ」と言ったので、驚いて振り向いたのだが、澪は、「気持ち悪ーい」と言いながらティッシュにくるんだ小さな虫を佐都子に見せていた。それを見た佐都子は「ぎゃーっ!」と言って叫び、みんなでパニックに陥った。
「な、なにっ? ちょっと見せて!」
僕は澪から虫を包んだティッシュを受け取った。
「さっき、畳の上で、小さい虫がぴょんぴょん跳ねてたから、捕まえて潰したら血が出てきたの」
「え? 虫から赤い血が出てきたの?」
「うん」
確かに、哺乳類でもないのに、潰したら真っ赤な血が出てくるとは気持ちが悪い。そんな虫は蚊だけにしてほしい。でも、その虫をよく見てみたら、僕にとっておなじみの虫だった。僕は子供の頃から虫好きで、家に昆虫図鑑なるものがあって、その図鑑で見たことがあったし、子供の頃に犬も猫も飼っていたので、しょちゅう目にしていた虫だった。
「この虫ってなに?」
佐都子が訊いた。
「蚤だよ」
「え……」
「昨日、誰か、外で、野良猫か野良犬を触ったんじゃない?」
「あ、そういえば、僕、猫を触った」
輝が言った。
「家出してたとき?」
「うん」
「俺も猫が好きだから気持ちは分かるけど、蚤に刺されたら結構酷い痕が残るから、もうあんまり触るんじゃないよ」
「うん」
一週間後、黎が退院してきて、漸くみんなにも笑顔が戻った。いくら兄弟の数が多いとはいえ、一人でも欠けるとやっぱり淋しいものである。五人兄弟は五人であるべきなのである。
それにしても、これで当分の間、どんちゃん騒ぎはおさまるだろうと思っていた。
ところがだ! ところがまたこの三バカ息子はとんでもないことを起こした!
輝に連れられて、上野公園のほうへ三人で遊びに行っていたらしいのだが、不忍池で鵜に見とれていたら、爾が落っこちて、それにつられて輝と黎も池に落ちたのだった。三人がずぶ濡れで帰って来たときは、開いた口が塞がらなかったと佐都子が言っていた。しかも、黎はまだ包帯が取れていないのに……。
しかし、今回はとくに大きな怪我もしていなかったので、ほっとした。ほっとしたけど、黎の腕が心配で、僕はまたもや雷を落とした。雷を落としたら、今度は三人がまとめて家出してしまったのだった。




