第一話 5
通りに沿って小学校へ向かった。この通りは昔から賑わっていたらしく、いろんな店が立ち並んでいる。下町なので、駐車場が無い小規模の店ばかりだった。けれども、地下鉄が通っているし、近くに分譲マンションが出来たし、区が誘致して出来たオフィスビルもあるし、どこの店もどうにかこうにか存続出来ていた。若い世代だけでなく、車を運転できない年配のお客さんも数多くそれらの店を利用していた。
澪によると、輝と黎は、ペットボトルのキャップと空き缶集めをしているらしいので、通りに設置してある自動販売機に注意を払いながら歩いた。店にはジュースのサーバーがあるし、自動販売機に注目して歩いた事が無かったのでびっくりしたが、百メートルくらいの間に、十機もあった。販売機の横には法令で決まっているのか、当然のごとく横にゴミ箱が設置してあるので、そのゴミ箱の中を見てみたら、目ぼしいものが一つもなかった。小学校に着くまでゴミ箱の中をチェックしてみたが、見事なくらい何もなかった。道路を渡って、向こう側の自動販売機も確かめたが、やっぱり何も入っていなかった。まさか、二人がゴミ箱を漁った後なのだろうか?
そんなことがあろうものかと思って、すごすごと引き上げて来て、うちの店の五軒隣りの銀行まで帰って来て、ふと脇道を見たら、空き缶が入った物凄いバカでかい大きさのビニールの山が、二つ移動しているのを発見した。僕は思わず「こらーっ! 待てーっ!」と声を上げて山に近寄った。だけど、突然大声を上げて叱られたら、そりゃ誰だって逃げるだろう。二人は袋を抱えて逃げる逃げる。だけど、やっぱり、大人の足には勝てない八歳と七歳なのであった。
二人の首根っこを掴んで、「こらっ!」と叱ったら、意外と素直に二人とも「ごめんなさい」と言った。
「勝手に取ったら泥棒だろう?」
「えーっ、捨ててあるのに?」
輝が言った。
「どこから拾ったの?」
「自動販売機の横のゴミ箱」
黎が言う。
「なんでそんなことをしたんだ?」
そう訊いたら、今度は二人が押し黙ってしまった。
「あのなぁ、二人ともちゃんとお小遣いをあげてるだろ? そりゃ一月五百円だから少ないとは思うけど、何も空き缶拾ってお金稼ぎをすることはないと思うな。それにどうやってお金に換えるんだよ。子供が拾った空き缶を買ってくれるところなんてないだろ?」
「違うよ」
輝が言った。
「何が違うんだ?」
「お小遣いにするんじゃない!」
黎が言った。
「じゃあ、何のために拾ってるんだ?」
「おじいちゃんのため……」
輝が言った。
「うちのおじいちゃんは二年前に亡くなりましたが?」
「うちのおじいちゃんじゃない!」
黎が言った。
「どこのおじいちゃん?」
「高木のおじいちゃん……」
輝が言う。
「え? 駄菓子屋の隣の家の?」
「うん……」
二人とも同時にそう答えた。