第五話 8
次の日、美津子おばちゃんが珍しく遅番になっていて、水元君を慰めていた。
「別に殺されるわけじゃないんだから、そんなことで落ち込むことないわよ。この世の中にはね、明日をも知れない命の人や、満足にご飯が食べられなくて飢えている人や、仕事がない人や、住む所がない人や、虐待を受けてる人や、知らない間に感染病になってる人や、交通事故や病気で手足がなくなったり、歩けなくなったり、家族と生き別れになったりしている人もいるのよ。水元君の場合は、悪いところを直せばいいだけじゃない。李君は確かにきついよ。でも、意地が悪いわけじゃないじゃない? もうちょっと、二人で話し合いをするなり、直すところは直していけばいいだけじゃないの? ね、店長?」
「あ、うん、そうだよ。李君は正直なだけだよ」
僕がそう言ったら、水元君が顔をしかめたので、あ、やばい、と思ったが、少しは彼も反省すべきだと思ったので、僕も敢えて訂正はしなかった。でも、それはそうと、あと六日後に迫った学園祭の件を水元君に任せていいのか、正直なところ僕は迷っていた。
「でも、水元君」
「はい」
「学園祭の件はどうする? 無理だったら僕がやるよ」
「い、いえ、大丈夫です」
「ほんとに?」
「僕にやらせて下さい。お願いします!」
そう言って、水元君はずっと頭を下げているので、僕は「分かった。じゃあ、お願いするよ」と言った。
それでもやっぱり、少しは僕も手伝ったほうがいいと思ったので、水元君と念入りに打ち合わせをした。何人で何を担当するのか細かく決めていった。
まず、パンと肉を焼く人二名は水元君、香苗さん。パンに野菜やチーズを載せる人三名、美津子おばちゃん、真知子さん、花園さん。最後にソースを載せて紙に包む人三名、李君、武智さん、僕。
無理を言って早朝から来て働いてもらうのだからと、その日の昼食はうちの会社持ちで、仕出し弁当を頼むことにした。そのメニューも水元君に決めてもらい手配も頼んだ。パンや肉や野菜やソースの発注も確認したが、そちらのほうはすでにきっちりと手配済みになっていた。
心配なのは当日、スムーズに仕事が運ぶかどうかだけだった。でも、やってみてだめだったらすぐに変えればいいことだし、その辺は臨機応変にやろうということになった。




