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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第五話 7

 二日後、店舗検査が行われた。検査の時間は、店が一番混雑する午後十二時半に行われた。この時間帯をスームーズにこなせたら、他の時間帯はおそらく難なくこなせるだろうという本社の目論見があって、決められたことだった。


 検査官は、何も言わずに店内に現れる。込み合った店内でいちいち挨拶などしている場合ではないからというのもあるし、普段通りの店を検査するのが目的だからである。

 まず、店頭をチェックし、次に店内の清潔度や雰囲気、紙ナプキン入れやゴミ箱をチェックし、次にトイレをチェックした。次に厨房を細かくチェックしていく。冷蔵庫の中、棚の上、野菜入れ、食器入れ、シンクなどの水回り。


 一通りチェックが終わると、検査官は今度は、客と一緒にレジに並んだ。そして普通に注文して、従業員の接客態度をチェックした。注文が終わると、今度はどのくらいの時間で商品が運ばれてくるかをチェックした。すべてを一時間半で終えたが、検査されるほうは物凄く長い時間に感じられて、どっと疲れた。しかも、渡された結果を見て、今度はどん底に突き落とされた。


 ハンバーガー……〇点

 スープ……〇点

 デザート……一点

 コーヒー……〇点


 はぁ? なにこれ? いっ、一点?


 店内の清潔度はほとんど満点に近い高得点だった。レジの接客態度も重鎮の香苗さんが担当したからほとんど満点だった。厨房のチェックは満点ではなかったが、まぁ及第点かなという点数だった。

 ところが、最後に行われた商品に対するチェックが、二十点満点中、一点しか取れていなかった。商品を用意したのは全部水元君だった。


「あのぉ、……な、何が悪かったんでしょうか?」

 僕は、げっそりしながら検査官に質問した。

「うーん、まず一番問題なのは、時間が掛かりすぎてること。それと、見た目が汚い。デザートもはみ出るくらいシェイクを入れているが、量が多ければいいって問題じゃない。美しさも大事。スープとコーヒーは温すぎだよ。器を事前に温めておかないと、陶器に入れている意味がないよ。紙コップのほうが冷めてなくていいってお客さんに言われるよ」

「はぁ、そうですね……」

「でもね、他が高得点だったから、かろうじて及第点は取れたみたいだけどね。ほんとに危なかったよ」

「は、はい……」

「新店舗の出資の件だけど、もうちょっと先にしたほうがいいんじゃない? これじゃあ、OKが出るとは思えないよ」

「はぁ……」


 僕は思いっきりため息を吐いた。新店舗を出店するとき、費用の半分を本社が出資してくれる制度がある。僕はそれを利用しようと思っていたのだった。


 水元君の落ち込みは激しく、検査官が帰ってから、店内がお葬式のようになっていたのだが、午後四時になって、李君が出勤してきて僕に言った。

「だから、水元さんはやめておけって言ったじゃないですか。香苗さんが作って、真知子さんがレジをやればよかったんですよ、あんな奴にやらせるから」

 李君は隣りに水元君がいるにも関わらず平気で彼の悪口を言い続けた。


「掃除や整頓は、みんなが協力してやったから綺麗になってたけど、結局水元さんが作ったとこだけ点が悪かったんですよね? 店長をやるなんて百万年早いんじゃないんですか? 作ったハンバーガーも汚いし、包み方もぐちゃぐちゃだし、スープもコーヒーも温いし、何が悪いのか、普通は考えたら分かるでしょ? それにね、水元さんがハンバーガーを作った後、全然綺麗にしないから、油だらけで次の商品が作れないんですよ。でも致命的なのが、あれだけいい加減な汚い作り方をしてるのに、要領が悪くて作るのが物凄く遅いこと。頭が悪いんじゃないですか?」


 そこまで、李君は言いたい放題言いっぱなしで、しかも全部が全部、ドンピシャなことばかりを言い当てているので、それを横で黙って聞いていた水元君もさすがに耐えきれなくなったのか、「うわーん」と声を上げて、泣きながら厨房から出て行ったのだった。いつの間にか、店内に輝と黎と爾が座っていて、その様子を見ていた輝が「あーあ、泣かせちゃった」と一言言った。


 僕は仕方がないので、午後四時で上がる予定だった花園さんに、水元君の代わりに午後八時まで延長して働いてもらうように頼み込んだ。花園さんもさすがに空気を読んで、OKしてくれたのだった。


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