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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第五話 5

 次の日の午後三時、少し手が空いてきたので、今日の夜のシフト表を見たら、水元君と李君が同じ時間に働くという恐怖のシフトになっていた。でも、今日は僕が八時までいるから、どうにかなるとは思うが、とにかく、この二人が二人だけで同じ時間帯に働くことがないように、これからシフトを組むときに考えなきゃいけないなと思った。


 女ばっかりの職場も働きにくいとよく聞くが、男ばっかりの職場もこういうことが起きる。しかも、半分、暴力沙汰だし……。女ばっかりより男ばっかりのほうが、タチが悪いかもしれない。やっぱり、男女が一緒にいるほうが、お互いの醜い部分を見せまいと抑制がかかるんだろう。



 午後四時になって、早番と遅番が交代し、水元君と李君が出勤してきた。二人の様子を恐る恐る遠巻きに観察していたのだが、さすがに僕がいるので、二人とも猫をかぶっているようだった。でも、二週間後に店舗検査が迫ってきているし、その一週間後には学園祭がある。大丈夫なんだろうか……。


 けれども、水元君のハンバーガーの作り方をまじまじと横で見ていて、そう言われれば丁寧さに欠けるというか、パンの上の野菜の置き方も手に取ったまんまを整えずに雑に置いていて、ソースもはみ出ているなとは思った。一方李君の作り方は、スポーツマンでやんちゃなわりに、物凄く丁寧で綺麗な作り方で、ソースもはみ出ることなくしかもたっぷりとかかっていて、李君より一四年先輩の僕でも感心するような作り方をしていた。

 いやー、しかし、取りあえず、店舗検査と学園祭が終わるまで、何事も起きませんようにと祈るしかなかった。


「お父ちゃん、真緒のお姉ちゃんから電話があった?」

 夕飯時に、澪が僕に訊いてきた。

「うん、あった、あった」

「そう、良かったね」

「うん」

「それで、何個作るの?」

「ハンバーガーとチーズバーガーを一五〇個ずつ」

「ひえー、大変だ」

「よかったら、作るの手伝って」

「いいよ」

「嘘だよ。配達するときに運ぶのを手伝って」

「うん」

「ねぇねぇ、水元君と李君、大変なんだって? 香苗さんから聞いたよ」

 佐都子が話に割って入って来た。

「え? なに?」

 澪が変な顔をして訊いた。

「あ、ごめん、子供には関係が無い話なの。澪はもうご飯食べたんでしょ。あっち行って、早く宿題しなさい」

「ちぇっ」

「輝と黎は? 宿題終わったの?」

「まだー」

「じゃあ、三人で子供部屋で宿題してなさい」

「はーい」

、小学生三人は、子供部屋で宿題を始めたが、爾が僕たちの横に来て、ニコニコしながら座っているので、あっちに行けとも言えず、そのまま僕たちは爾の存在を無視して話をすることにした。


「香苗さんも水元君は嫌いって言ってたわよ」

「はぁ? 嫌いだって?」

「うん」

「もう、香苗さんて、はっきりしてるよね」

「香苗さんは昔からはっきりしてるよ」

「何がそんなに嫌なのかね」

「どんくさいし汚いとか言ってた」

「えーっ? ほんとにはっきりしてるね」

「あ、でもね、美津子おばちゃんは気が合うと言ってたわよ」

「美津子おばちゃんはスローモーションだから、おっとりしてる水元君と合うんでしょ」

「うん、穏やかだし、話しやすいと言ってた」

「仕事をしやすいじゃなくて、話しやすい?」

「うん」

「まぁ、仕事をするのにおいて、気が合うことは重要なことだよね」

「うん」

「でも、どうしよう?」

「なにが?」

「水元君と李君のシフト」

「僕と水元君と代わってもらおうか」

「うん、それがいいんじゃない? 水元君には、いずれ店長になって貰うんだから」

「うん、そうだね。そうするよ」


 そこで話が一段落したのだが、今まで黙って横で聞いていた爾が「水元君と李君って仲が悪いんだね」と言ったので、「しっ! 輝と黎に言ったらだめだよ。大変なことになるから」と佐都子が言ったら、爾は「うん」と頷いた。


 食卓に光を座らせて、リンゴをかじらせていたのだが、話に夢中になって気が付かなかったが、光はかじったリンゴを食卓の上にぺっぺっと吐き出し、その欠片を手で捏ねて遊んでいて、それをみて僕と佐都子と爾の三人で大笑いしたのだが、光はその声にびっくりしながらも、僕たち三人の顔を見てニコニコしはじめた。赤ちゃんは可愛いよな。人が笑っている顔を見て笑うんだから。それに比べて大人はめんどくさい。大人もこうだったらいいのになと思ったのだった。


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