第五話 1
この間、池上君と崔さんの自宅に招かれて久しぶりに二人に会ったのだが、随分幸せそうで安心した。
しかし、この二人、知り合ってから七年も経つのに、六年十一ヶ月の間、何の進展もなく、辞める一ヶ月前に劇的に進展して結婚してしまった。元々仕事場が一緒だから、どんな性格でどんな仕事っぷりなのかはお互い分かっていたとは思うけれど、ここまで一気に盛り上がるなんて思ってもみないことだったので、とにかくびっくりした。
崔さんは、お父さんの会社を無事日本に設立することが出来たみたいで、ステーキハウス第一号店を日本橋に開店することが出来たと言っていた。池上君はその店で店長をしているらしい。「是非ともご家族で来てください」と招待された。はい、はい、ぜひ行かせてもらいますとも。
この二人の代わりに新しくうちの店に入って来た二人だが、やっぱり、崔さんの抜けた穴はデカかった。崔さんはアルバイト生だったが、毎日のように朝の七時から午後四時まで働いてくれていたが、崔さんの代わりに入った山崎さんは、大学生だからそんなに長時間働けないので、やっぱりもう一人要員を増やす必要があった。
一方、池上君の代わりに入った水元君は真面目一筋の人で、美津子おばちゃんや香苗さんや真知子さんや玲子さんのパートのオバチャンズともすぐに打ち解けたみたいだし、彼の今後は順風満帆のように思われた。この調子で頑張ってくれたら、新店舗開店もそう遠い話ではないだろう。
ちなみに、うちのハンバーガーショップは大手全国チェーン店のフランチャイズ店である。フランチャイズ店といっても、なめてかかってはいけない。誰でも彼でもショップを開けるというわけではなく、ある程度、修業期間があって、この人間ならオーナーとして任せられると本社が認めた人間でないと、ショップは開けないのである。だから、店長の失敗=オーナーの失敗と見なされるので、一店舗経営だろうが十店舗経営だろうが、細心の注意を払って全力で取り組まなければならない状況にあって、ずさんな店舗経営はご法度だった。何故なら、全国チェーンの飲食業は一店舗の事故でも命取りになりかねないからである。一店舗でも事故を起こすと、そのニュースはあっという間に日本全国のお茶の間に流れ、全店舗の売り上げが壊滅状態になるという恐れがあるからである。
だから、本社の人間が抜き打ち視察に来ると、いつも店内は騒然となった。要するに、毎日緊張感を持って仕事に臨めばいい話なのだが、人間だからどうやったって、丸一日中、緊張感が続くわけがない。気が抜ける時だってあるのである。だって、人間だもの、失敗はあるさ。けれども、その失敗はいつも、最小限で食い止めなければならないのであった。




