第四話 9
ヘルパーさんも黎も僕も佐都子も悶々とした日々を過ごしていたが、ある日それは唐突に終わりを告げることになった。鈴木のおじいちゃんの行方が分かったのである。警察から電話があって、僕は最初すごく嬉しかったのだが、話の内容を聞いてどん底へ突き落とされた。
鈴木のおじいちゃんは、一ヶ月前に行方不明になったその日に、交通事故に遭い亡くなっていた。場所は銀座のど真ん中だった。多分、電車を乗り継いで行ったんだろうということだった。
数日後、鈴木のおじいちゃんのお葬式がひっそりと行われた。町内会の役員とヘルパーさんと僕と佐都子と黎と澪と輝と爾と光だけの小さなお葬式だった。黎は小さな胸を痛めているのか、ずっと泣いていた。その後、へルパーさんが店に来てくれて、生前の鈴木のおじいちゃんの思い出話をしてくれた。彼女の話によれば、鈴木さんは若い頃から映画が好きで、よく奥さんと見に行っていて、その後、銀ブラするのが楽しみだったらしいということだった。きっと奥さんに先立たれたから、認知症にもなってしまったんでしょうねと淋しそうに語っていた。その僕たちの話をすぐ近くで聞いていた水元君が、突然思い出したように「あ!」と叫んだ。
「なに、急に? びっくりするじゃん」
「あの、思い出したんですよ」
「何を?」
「あの日のことを」
「あの日って?」
「鈴木さんが最後にお店に来てくれた日のことです」
「ああ、いつもなら食べて帰るのに、お持ち帰りしたんだよね」
「はい。あのとき、鈴木さん、奥さんにご飯を買って帰ると言ってたんですよ」
「……」
僕はそれを聞いて、言葉が詰まった。ヘルパーさんもしばらく言葉を失っていた。その後、僕もヘルパーさんも、ただ、黙って涙を流した。
鈴木のおじいちゃんは、きっと銀座に奥さんを捜しに出かけたのだろう、そう思った。あの日の彼は、奥さんが亡くなっていることにも気付かず、夕飯を用意して銀座に向かったのだ。毎日の自分のご飯でさえ、満足に用意できない状態だったのに……。
その日の夜、多分、僕はずっと夢を見ていたんだと思う。どんな夢だったのか思い出せないのだが、すごくすごく苦しい夢だった。暑くて息が苦しくて死にそうな夢だった。もうだめだと思って目が覚めたのだが、僕の顔の上に光が乗っかっていて、僕の鼻と口を塞いでいた。ああ、だから苦しかったんだと思った。
時計を見たら、まだ午前五時で、みんなは酷いあり様で寝ていた。まともに布団をかぶって寝ているのは、澪だけだった。爾なんか僕の隣りに寝ていたはずなのに、向こうの端まで転がっていた。
僕と佐都子は以心伝心できるのか、僕が起きると佐都子もむくっと起きたので、びっくりしたのだが、佐都子は僕の顔を見るとにっこり笑って言った。
「さっきね、鈴木のおじいちゃんが夢に出て来たの」
「そう……」
「おじいちゃんね、幸せそうだったよ」
「え?」
「おばあちゃんに会えて嬉しいって言ってた」
「……」
佐都子は、酷いあり様で寝ている子供たちを見回しながら、「一樹、ありがとう。幸せだね」と言って、また寝てしまった。
本当に僕は幸せだ、そう思うよ。




