第一話 4
プップー。
変な音だと思うが、店と上階に通じるインターフォンの呼び出し音だった。いつまでたっても佐都子が二階から降りてこないので、痺れを切らして僕がインターフォンを鳴らしたのだった。
「はい、なに?」
佐都子がインターフォンに出た。
「あのぉ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど?」
「え、またぁ? 今から爾を保育園に迎えに行かなきゃいけないんだけど?」
「あ、そ、そうだね。それは分かってるんだけど……澪から聞かなかった?」
「なにを? なにも聞いてないよ」
僕はまたしてもため息を吐いた。
「輝と黎がゴミ箱を漁ってるんだって」
「はぁ? バカじゃないの?」
「バカなのは分かってるんだけど、連れて帰ってくれないかな」
「無理~。だって、爾の友達の沙也加ちゃんのお母さんが今日用事があって、代わりに沙也加ちゃんも一緒に迎えに行ってあげないといけないんだよ。だから、だめ」
「どうしても、だめ?」
「うん。だって、小学校と反対方向だし、それにね……」
「あ~、分かった分かった」と言いながら、僕はインターフォンを途中で切ってしまった。その様子を見ていた美津子おばちゃんが、たまりかねて口を挟んだ。
「店長、今、ちょうど暇だから、行って来られたらいいですよ。私たち二人でなんとかなりますよ」
「そうそう、二人とも、ベテランですから大丈夫ですよ」
香苗さんもそう言った。
「え、いいんですか?」
「いいですよ」
「もうすぐ、李君も来る時間だし、お願いしてもいいですか?」
「はーい」
そう二人に言ってもらえたので、僕は急いで制服を脱ぎ、私服に着替えて、バカ二人を迎えに行った。